第92話 コウノトリ
金田一
「さて、お次は誰かな?」
司会
「次は初登場のコウノトリですね。はるばる兵庫県から飛んで来たみたいですね。それではコウノトリさんどうぞ」
コウノトリ
「はじめまして。兵庫県の豊岡市からまいりました」
司会
「確か豊岡市はコウノトリさんで有名な街ですよね」
コウノトリ
「はい。おかげ様で飛行場にも『コウノトリ空港』とネーミングされてます」
司会
「たしか豊岡には『兵庫県立コウノトリの郷公園』という施設もありますよね」
コウノトリ
「はい、人とコウノトリが共生できる環境と学習の場を提供することを目的として、この中で私たちは保護されています」
司会
「ところで、早速ですがコウノトリさんは今日は何を提訴されますか?」
コウノトリ
「やはり『コウノトリは赤ちゃんを運んでくる』ですね」
司会
「これはもう有名ですね。風呂敷に包まれた赤ちゃんを運ぶ姿のイラストは、安産を願う妊婦さんの御守りにもなってますね」
コウノトリ
「はい。でも、なんで私たちが赤ちゃんを運ばなければならないんですか?」
司会
「あれ?この仕事にご不満なんですか?」
コウノトリ
「考えてもみてください。日本では年間86万人の赤ちゃんが生まれているんですよ。それに比べてわれわれは今『絶滅危惧種』と言われており、赤ちゃんの運搬に従事する数はわずかしかいないんです」
司会
「なるほど。毎日総動員しても過酷な作業が想像されますね」
コウノトリ
「私たちは元来、のんびりと暮らしたいタイプなんですけども、この作業のおかげで昼も夜も休めない状態なんです。しかし全国の妊婦が心待ちにしているから手は抜けません」
司会
「それはひどいですね。まるでブラック企業じゃないですか?」
コウノトリ
「はい、ですから今日は、この激務に疲れましたから辞退をお願いしたいと思います。辞退したいもう一つの理由は、若いお父さんお母さんが子供に性教育できないために子供から『赤ちゃんはどうやってできるの?』って質問されたときに、必ず私たちが登場するのが心苦しいのです。何か子供を騙してるようで」
司会
「わかりました。辞退と言う事ですが金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「はい。コウノトリさんは現在『絶滅危惧ⅠA類』に分類され、ごく近い将来、野生での絶滅の危険性が極めて高いとされています」
司会
「どのくらい少ないんですか?」
金田一
「世界全体での個体数は、1000以上2500未満とされています。仮に最大数の2500羽としても赤ちゃんの年間出生数が86万人ですから一羽あたり344人を運ぶ必要があります」
司会
「だから毎日1人の赤ちゃんを休みなく運んでるんですね」
コウノトリ
「はい、まさに無休です。そもそも何で私たちが赤ちゃんを運ぶ役目なんでしょうか?」
金田一
「実はコウノトリが『赤ちゃんを運んでくる』と いう伝承はヨー ロッパ・コウノトリについてのものです。このイメージに大きな影響を与えたのが童話作家・アンデルセンです。彼の作品『沼の王の娘』に、子どものいないヴァイキング夫婦にコウノトリが子どもを届けるという、まさにイメージ通りのくだりが登場します」
司会
「という事は日本のコウノトリさんは、全く関係ないって言うことですよね」
金田一
「はい、そういうことになりますね」
司会
「それはひどいですよね。て言うか絶滅危惧種になった原因は過酷な労働にあると思いますが」
コウノトリ
「でしょう?ご理解いただけましたでしょうか?早く辞退させてください」
金田一
「わかりました。明日からは『クロネコが赤ちゃんを運ぶ』ではいかがでしょうか?」
司会
「また大胆ですね!」
金田一
「理由はクロネコ・ヤマトのロゴマークの母ネコが赤ちゃん猫をくわえてる姿です」
司会
「あ、コウノトリさんが赤ちゃんを運ぶ姿に似てますね。しかし会社側に許可も無く変更して大丈夫ですか?」
金田一
「あ、彼らは『国家レベルの仕事を受けた』と思い逆に喜びますよ。それと、彼らはそもそもが運送業なので物資を運ぶ役目は適任でしょう。日本全国どこでも翌日に届くと言うのも強みです」
司会
「コウノトリさん、クロネコさんにタッチ交代ですがいかがでしょうか?」
コウノトリ
「私たちはもう、交代していただけるだけで満足ですので異存はありません。明日からはゆっくり休めそうです。ありがとうございました」
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