第90話 ミイラ

 金田一

「はい、お次は誰かな?」


 司会

「次はなんと、あのミイラですね。もちろん初登場です。それではミイラさんお入りください」

 包帯でぐるぐる巻きにされたミイラが会場内に入ってきた。

 司会

「ご本人を前にしたアレですけれども、やはり実際にこうやってお会いしてみると不気味ですね」


 ミイラ

「すいません。これ一着しか服がないもんで・・・」


 司会

「はい、それでは早速ですが、今日はどのことわざを提訴されますか?」


 ミイラ

「はい、ズバリ『ミイラ取りがミイラになる』ですね」


 司会

「これもよく言いますよね。道に迷った人を探し行った人が、同じく道に迷って迷子になってしまうと言う例えですね」


 ミイラ

「はいそうなんです。そういう意味では、昔はどんどんミイラになってくれて新しい仲間が増えて楽しかったんですが、今は全く変わりました」


 司会

「え?どういう風に変わったんですか?」


 ミイラ

「ちょっとこれを見てください」

 ミイラが1枚の紙を司会に手渡した。


 司会

「なんですかこの紙は?」


 ミイラ

「エジプト考古学者・吉村作治さんのプロフィールです。公式サイトからプリントアウトしました」



 現職は、東日本国際大学学長、早稲田大学名誉教授、工学博士。

 1966年、アジア初のエジプト調査隊を組織し、発掘調査を始めてから約半世紀にわたり調査・研究を続けている。

 電磁波探査レーダー、人工衛星の画像解析といった最先端の科学技術を駆使した調査により、数々の成果を挙げた。

 74年のルクソール西岸・魚の丘彩色階段の発見により一躍注目され、その後も200体のミイラ、太陽の船、未盗掘墓の発見等、エジプト考古学史上に数多くの足跡を残している。



 司会

「えー、すごい実績ですね。ミイラを200体以上も発見してますよ!」


 ミイラ

「そうなんです。しかしミイラ取りの吉村さんはミイラにならずに、まだピンピンとご活躍しています」


 司会

「そうですね。テレビなんかでよく見ます。という事は今回の提訴はこのことわざの変更ですか?」


 ミイラ

「はいそうです。ぜひとも変更してほしいと思ってまいりました」


 司会

「そういうことですので金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「秘境にある考古学調査は100年前はほんとうに命がけの作業だったんです。遭難や疫病、飢餓、害獣などで簡単に命を落としました」


 司会

「あ、昔カーナボン卿のピラミッド発掘の話を読みましたが、疫病でかなり多くの方が亡くなってますよね」


 金田一

「そうです。しかしこの100年間で考古学調査の方法もずいぶん科学的になりました。昨今のGPSの進化やドローンによる機材や食料の輸送そしてX線などによる解析技術等で本当に簡単に発掘調査ができるになりました。また医学の発達で疫病対策も完璧ですね」


 司会

「それじゃあ、このことわざは現代では意味をなさないと言う事ですね」


 金田一

「そうですね。全くの昔話ですからこの提訴は有効とします」


 ミイラ

「あの・・・どのように変えていただけるんでしょうか?」


 金田一

「ズバリ『ミイラ取りはノーリスク』でいかがですか」


 司会

「意味は何ですか?」


 金田一

「意味は『科学の発達によって昔は危険なことだったものがどんどんリスクがなくなって簡単に挑戦できることになった』の例えにします」


 司会

「なるほど、これなら現実に即してますね。ミイラさんいかがですか」


 ミイラ

「はい、納得しました。あの・・・ついでに少し宣伝広告していいですか?」


 司会

「はい、どうぞ」


 ミイラ

「あの・・・せっかくノーリスクになったんですから、どんどん皆さんミイラ取りにやってきてください。一同、心よりお待ちします」

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