第85話 馬 3回目
金田一
「さてお次は誰かな?」
司会
「次はは馬ですね。3回目の登場です。それでは馬さんよろしくお願いします」
馬
「前回は『馬の耳に念仏』でお世話になりました。ありがとうございました」
司会
「どういたしまして。早速ですが今日は何を提訴されにきましたか?ね
馬
「はい、ズバリ野次馬ですね」
司会
「これは毎日テレビなどで使われますよね。『どこどこの火事ではたくさんの野次馬が集まった』とか」
馬
「もちろん人間の言葉に、我々馬が使われる事は良いことなんですけども、これってあんまりいい言葉じゃないですよね」
司会
「そうですね。何か関係のない人たちや責任感のない人たちが集まってワイワイ騒いでいるようなイメージを受けますね」
馬
「そろそろ変えていただけませんでしょうか?」
司会
「なるほど。今日の提訴内容はこの言葉からの辞退ですね」
馬
「はい、辞退です」
司会
「わかりました。という事ですが、金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「野次馬とは、『昨日、我が町で大事故が起き、大勢の野次馬が集まった』のように、自分には無関係なことに関して興味本位で騒ぎ立てたり、人に便乗して無責任に面白半分で口を出したりする人のことを表します」
馬
「そうなんです。テレビで『野次馬』の言葉を聞くたびにいい気持ちはしません」
金田一
「江戸時代から使われているとされるこの表現の由来にはいろいろありますが、老いた馬を指す『親父馬(おやじうま)』から来たという説が有力です」
司会
「へー、そうなんですか。親父馬が短縮されたんですね」
金田一
「馬は、集団行動する動物です。集団の中でも、老いた馬は体力がなくなり、若い馬の後をついていかざるを得ません。さらに老いた馬は体力不足から人間にとっては仕事に使えず、利用価値が低いものです。この二つの意味を合わせ、人の後をついて回るだけで価値の低い老いた馬を『野次馬』というようになりました」
司会
「金田一先生、『野次』はどういう意味ですか?」
金田一
「もともと『野次』の部分は当て字といわれていますが、人に対してからかいや非難の言葉を浴びせることを『野次を飛ばす』といいますよね。この『野次』は元をたどると『野次馬』が略されたもので、明治時代から使われているそうです」
司会
「つまり『野次馬』が先だったのですね」
金田一
「はい。野次馬をするような気質を表す『野次馬根性』という言葉もありますが、いずれもあまりいい意味を持たない表現です」
馬
「やっぱりロクでも無い言葉ですね。老いた馬は使い物にならないと言いましたが、それは牛でも人間でも一緒じゃないですか。なんで我々馬がその代名詞にならなければならないんですか?」
司会
「確かにそうですよね。動物なら全て歳をとったら使い物にならないわけですから」
馬
「そうですよ。そもそも事故とか火事で集まってるのは無責任な人間なんでしょ?私たち馬じゃないですよね。だから人間内で解決してください」
金田一
「わかりました。それでは馬さん、これでどうでしょうか?『野次人間』と言うことで。100年間、馬さんがその役を引き受けてくれたので我々人間にバトンタッチするのはいかがでしょうか」
司会
「なんか人間としては複雑な心境ですが、まぁ現代の人間の戒めとしてはいいんじゃないですか。最近はほんとにネットなんかで無責任な言動をする人が増えましたので。馬さん、いかがですか?」
馬
「いや、私たちはもう誰かに替わっていただけるだけで大満足です。今日はどうもありがとうございました」
司会
「長らく続いた審議も今日はおしまいにさしていただきます。みなさんどうもお疲れ様でした」
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