第77話 牛 3回目

金田一

「さて、お次は誰かな?しかし毎日忙しいな」


司会

「はい、頑張ってやりましょう。次は牛ですね。それでは牛さんどうぞ」


チリンチリンと首の鈴が鳴ってゆっくりと牛が登場した。


司会

「牛さんも3回目の登場になりましたね。今日の提訴したいことわざはなんですか?」


「あのー、あれですわ。『食べてすぐ横になると牛になる』を是非提訴したいですわ」


司会

「あ、これはよく言われましたね。子供の頃にご飯を食べてすぐにゴロンと寝た瞬間におばあちゃんから『こら、牛になるぞ!』と言われたものです。子供心に、なんで牛になるのかなと不思議に思ってました」


「やはり言われましたか」


司会

「この言葉の何が不満なんですか?」


「なんだか、とてもバカにされてるような気がするんですわ。要するに私たち牛に対するリスペクトを感じないのよ」


司会

「はあ、リスペクトですか・・・」


「ゴロゴロしてたら『牛のようなくだらない生き物になってしまうぞ!それでもいいのか?』と言う完全に上から目線の言葉ですよね」


司会

「そうですね。事実、私も『牛になんかになったら大変だ』と思って我慢して食べてもゴロンと横にならないように努めました」


「そんなに牛になるのが嫌ですか?」


司会

「本人を前にして言うのも何ですが、やはり嫌ですね」


「ハッキリ言うわね。でも牛の生活も実はそんなに悪くないんですよ」


司会

「そんなものですか?」


「そうですよ。こちらから見たら人間の生活の方が、為替や株の動きやどこどこで戦争が始まるとか夫婦喧嘩で離婚など、毎日慌ただしいじゃないですか」


司会

「まぁ言われてみたらそうですよね。特に最後のは見にしみます」


「私たちは毎日、ゴロンと横になって草があれば食べるし、なければいつまでも寝る。そんな余裕がある生活なんですよ」


司会

「なるほど。そんな事ならおばあちゃんに反抗してゴロンと横になってたほうがよかったかもしれないな・・・あ、すいません。提訴内容を教えてください」


「あのー、リスペクトを入れて『そんな簡単に牛のような優雅な生活はできない』の意味にして欲しいの」


司会

「わかりました。金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「いやー、話は聞いてみるものですね。私たちもこの3日間ずっと審議、審議で食べる暇もなく仕事をやっていますから本当にのんびり暮らしてる牛さんが羨ましくなります。まして今の世相は時間厳守、コンプライアンス、セクハラ、パワハラなど規則規則で休まる暇がありません」


「そうでしょう?ですから、ぜひ言葉の意味を変えてください」


金田一

「わかりました。ではこうしましょう『食べてすぐ横になっても牛にはなれない』これでいかがでしょうか?」


「いいですわね!意味はなんですか?」


金田一

「意味は今までと真逆で『横になっただけで簡単に優雅な生活が手に入るとは思うな』と言う戒めですね。要するに優雅な生活を手に入れようとするためにはゴロンと横になるだけではなく、自分で常に努力しようと言うことです」


「まぁいいわね。ちゃんとリスペクトが入ってます」


司会

「牛さん満足しましたか?」


「はい大満足です。これから家に帰ってゆっくり寝ますわ」


チリンチリンと鈴の音が去っていった。

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