第75話 玉虫

金田一

「はい、お次は誰かな?」


司会

「次は初登場の玉虫ですね。玉虫さん、はじめまして」


玉虫

「はじめまして。よろしくお願いします」


司会

「しかしさすがに綺麗な羽根ですね。ピカピカしていますね。早速ですが今日は何を提訴されますか?」


玉虫

「はい。やはり『玉虫色の答弁』ですね」


司会

「あ、これはよく使いますね。国会とかで取りようによってはどちらでも解釈できるような曖昧な意見のことですよね」


玉虫

「これってやっぱり『悪いものの例え』ですよね」


司会

「そうですね。やはり男らしくハッキリしない答弁の時に使いますから、間違いなく悪い例えになりますね」


玉虫

「そうですか・・・少し自慢になりますが、古来から私たちの羽根の美しさは褒められたことはあっても貶されることはありませんでした」


司会

「わかります。平安時代の書物などでもかなり褒められていますよね」


玉虫

「はい、ですから悪い例えに使われることは私のプライドが許せないのです」


司会

「わかりました。ということは、今日の提訴内容はこの言葉からの辞退と言うことでよろしいでしょうか?」


玉虫

「はい!是非ともお願いします」


司会

「ということですが金田一先生、よろしくお願いします」


金田一

「玉虫さん、お気持ちよくわかります。実は私は昆虫の中で玉虫が1番好きだったんです。子供の頃に見た、あのメカニカルな輝きはまるで宝石のように思ったものです。その美しさゆえ、飛鳥時代の玉虫の羽根で覆われた玉虫厨子は国宝にもなっています」


玉虫

「お褒めに預かり光栄です。しかし悪い例えは勘弁願いたいです」


金田一

「玉虫さんのように『見る角度で色が違って見える』のを構造色と言います。身近なものとしてCDの裏面やシャボン玉がそうですね」


玉虫

「では、そのCDかシャボン玉に替えて下さい」


金田一

「いいのがあるんですよ。最近、東京大学は、見る方向や光の偏光方向によって色が劇的に変化する、レニウム(Re)を含む新物質の合成に成功したと発表したんです」


玉虫

「レニウム・・・ですか?」


金田一

「レニウム合成物の色は、見る方向によって緑から茶色に変化し、入射光の偏光により、赤・黄・緑の3つのまったく異なる色を示すそうです」


司会

「あ、玉虫さんと遜色ありませんね」


金田一

「ですから明日からは『レニウム色の答弁』にしましょう」


玉虫

「はい、辞退さえできればなんでも結構です」


司会

「よかったですね明日から施行されますよ」


玉虫

「明日と言わず、今からでもお願いしたいです。今日はありがとうございました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る