第74話 猪 3回目
金田一
「さーて、次は誰かな?」
司会
「次は昨日に引き続き猪ですね。猪さんどうぞお入りください」
猪
「おはようございます」
司会
「早速ですが猪さん、今日は何のことわざを提訴されますか?」
猪
「はいズバリ『猪も七代目には豕(いのこ)になる』です」
司会
「なるほど。確か豕は豚の意味でしたよね」
猪
「はいそうです」
司会
「意味は『猪ですら年月を経ると豚になるもの』ということから、長い年月を経れば、どの様なものでも変化するということですね」
猪
「はい、そうです。しかし普通に考えて、これってあり得ますか?」
司会
「と言いますと?」
猪
「我々野生の猪の寿命は約10年です。7代ということは約70年ですよね」
司会
「はい」
猪
「実はこの写真は、私のひいお爺さんの写真です。私と風体は変わりませんよね」
一枚の写真を司会に手渡す猪。
司会
「4代前ですね。見た感じは猪さんと同じ顔ですね」
猪
「そうです。このことわざの通りだと計算上、3代下の私のひ孫が突然、豚になるわけですね。そんなことがあり得ますか?って言うか、もしこれが真実ならば世の中は猪は絶滅して豚だらけになりますよ」
司会
「たしかにそうですね。あり得ないことですね。金田一先生、助けてください」
金田一
「はい、『人も時代も変化する』とよくいいます。これまでこのことわざは、元の雛形になる原型が時代によって変わりゆく例えに使われてきました」
猪
「しかし現実を考えたらあまりにも飛躍し過ぎていませんか?」
金田一
「知識も情報のない昔は、山岳地に住む人たちは『本当に猪が豚に変わるもの』と考えていました。しかし今の科学の常識では、もちろんあり得ないことです」
司会
「猪さん、提訴内容は辞退ですか?変更ですか?」
猪
「提訴内容は簡単です。世の中に本当の真実を伝えたいのです」
司会
「本当の真実・・・」
金田一
「では明日からはこうします。『猪も600代目には豕になる』でいかがでしょうか?」
司会
「いきなり桁が跳ね上がりましたね」
猪
「600代目の根拠は何ですか?」
金田一
「人類が狩猟主体の石器時代から農耕文化に移ったのがおよそ1万年前です。その頃は当然、家畜用の豚はいませんでした」
司会
「野生の猪はいたのですね」
金田一
「はい。『狩りの対象』として存在していました。しかし狩った猪を徐々に飼いならせた結果、豚になっていきます。4000年前の中国の古書にはすでに豚が登場しています」
司会
「あ、猪八戒は有名ですね。あれ?しかし猪が頭についていますね。先生、私は猪八戒は豚だと思っていましたが豚なんですか?猪なんですか?」
金田一
「ですから、そのあたりが猪と豚の変換点と考えて1万年マイナス4000年イコール6000年を計算基準とします」
司会
「なるほど。6000年を猪の寿命10年で割って600代が出た訳ですね。さすがです」
金田一
「猪さん、いかがでしょうか?」
猪
「なるほど。これは本当の真実ですね」
司会
「猪さん納得ですか?」
猪
「うん納得だ。今までウソを教えてきた子供たちに顔向けができる。ありがとうな」
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