第60話 カラス 2回目

金田一

「はい、お次は誰かな?」


司会

「次はカラスらしいですね。それではカラスさんお入り下さい」


カラス

「こんにちは、昨日はどうもありがとうございました」


司会

「こちらこそ、、カラスさん今日はどのことわざを提訴されますか?」


カラス

「はい。ズバリ『カラスの行水』です」


司会

「あー、風呂の時間が極端に短い人のたとえですよね。うちの娘からも『お父さん!ちゃんと体洗ったの?いつも烏の行水なんだから不潔!』と言われています」


カラス

「そうなんです。そういうふうに悪い意味でよく使われますが、そもそも皆さんは令和のこの時代に入って『行水』って言うものを見たことありますか?」


司会

「確かに最近ではめっきり見なくなりましたね。私たちが子供の頃には、夏の暑い日の午後などは庭に大きなタライのようなものに水を張って、よく行水をした思い出があります」


カラス

「しかし今の若い世代はやったことも見たことも無いでしょう?」


司会

「でしょうね」


カラス

「元来ことわざと言うものは、そもそもわかりやすくすることが目的のはずですね」


司会

「確かにそうですね」


カラス

「しかし見たこともないものを例えにするのはまずどうかと思います。そもそもイメージが湧きませんよね」


司会

「言われてみればそうですよね」


カラス

「次にこの表を見てください」

1枚の紙を司会に手渡すカラス。


司会

「なんですか?この紙は?」


カラス

「私たち鳥類の入浴時間を示した表です」

その紙には数々の鳥の入浴時間が示されていた。


カラス

「入浴時間が長い順番に書かれています。私たちは真ん中ですね。問題は1番下です」


司会

「なるほど、なんとスズメが1番短いですね」


カラス

「そうなんです。スズメは速攻で水浴びします。つまり私たちカラスよりも入浴時間の短い鳥がたくさんいるんです。まずはこの事実を知って欲しいんです」


司会

「わ、わかりました。金田一先生そろそろ出番です。よろしくお願いします」


金田一

「カラスは最近の研究では、鳥の中でも1番『きれい好き』だということがわかってきました」


カラス

「ご理解ありがとうございます」


金田一

「きれい好きな理由は毎日汚い残飯や死骸などを漁っているので『体や口の周りが汚い』と言うことです。ですから時々池や川の中に入って汚れを落とすと言う習慣があります」


カラス

「その通りです」


金田一

「その時間が短いと言うことから昔の人は『カラスの行水』と言うことわざを思いついたんです」


司会

「はい。でもカラスさんが言うにはまず『行水』と言う例えが古いと言う提訴が上がっています」


金田一

「じゃあここはズバリ『朝シャン』にしましょう」


司会

「なるほど『朝シャン』はうちの娘が洗面台でいつもやってるあれですね」


金田一

「はい。朝起きて出勤前にさっと髪をきれいにする行為です。これならイメージがつきやすいと思います」


司会

「なるほど。明日からは『カラスの朝シャン』ですね」


金田一

「はい。この例えだと若い世代にも多分、定着すると思います」


司会

「カラスさん、いかがでしょうか?」


カラス

「いいですね、今風で。ゴロもナイスです」


金田一

「次に意味ですが、今までは『風呂の時間が短い』と言う意味でしたけれども、明日からは『いつも身の回りをきれいに保つ』清潔な人の例えとします」


司会

「いいですね。あの先輩、素敵ね!まるで『カラスの朝シャン』ね。とか使うのですね」


金田一

「はい、意味は全く変わります」


司会

「カラスさん、いかがでしょうか?」


カラス

「いや、今日は最悪『行水』だけても変えていただきたく思って来たのですが意味まで変えていただき満足です」

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