第58話 タコ

金田一

「はい、次は誰かな?」


司会

「次はタコですね。それではタコさんどうぞ」

真っ赤な顔で湯気を立てたタコが入ってきた。


司会

「はじめまして、タコさん。今日はよろしくお願いします」


タコ

「あー、今日は今まで我慢してきたことを言わしてもらうぞ!」


司会

「何か、のっけから穏やかじゃありませんね」


タコ

「そりゃそうだ。俺たちほど馬鹿にされ続けた動物はいないからな」


司会

「わ、わかりました。では、その提訴内容をお願いします」


タコ

「ズバリ『このタコ!』や『ばーかターコ!』など、我々の名前を能力の無い無能な人の表現として使用するのやめてほしい」


司会

「しかしこれらは、そもそもことわざではありませんよね」


タコ

「たしかにことわざではないが、ことわざ以上に人を貶める悪い言葉として俺たちが頻繁に使用されていることに対して断固抗議する」


司会

「はあ、金田一先生。このように主張されていますがいいですか?」


金田一

「まあ、とにかく最後まで主張を聞きましょう」


タコ

「ネットで見たが、どうやら俺たちは『五大侮蔑用語』に入っているらしい」


司会

「ご、五大侮蔑用語ですか?」


タコ

「以下の五つだ。

馬鹿

アホ

マヌケ

カス

タコ

だ、分かったか!このタコ!」


司会

「わ、分りました。ということですが、金田一先生助けてください」


金田一

「確かにそうですよね。言われてみれば『タコ』ほど無能を表現する言葉はありませんね」


タコ

「そうだろう!」


金田一

「しかし実はタコは、真逆で無脊椎動物の中では1番知能指数が高くて賢いんですよ」


タコ

「だろうが。それがなんで無能の代名詞になるんだ。しかも『このタコ』以外にも悪い比喩に頻繁に使われる」


司会

「悪い比喩ですか?」


タコ

「そうだ。例えば

タコ部屋

タコ足配線

タコ足大学

タコ殴り

タコ配当

タコ社員

タコ麻雀

タコ教師

などだ。全部ロクでもない例えだ」


司会

「たしかに、よく使いますね。私も家内によく『タコ亭主』とか言われています」


金田一

「しかし日本とは逆で海外では、墨を吐き姿をくらますことやカメレオンのように保護色になることから『海の忍者』と呼ばれています」


タコ

「見ろ!海外のほうが我々をリスペクトしてるじゃあないか!それを日本人はなんだ!リスペクトのかけらも無い!昔『くれくれタコラ』なんていうくだらない番組もあったくらいだ」


司会

「まあまあ、そう怒らないで」


タコ

「足の数が多いから多分『タコ足配線』なんだろうが、それならイカ足配線でもクラゲ足配線でもよかろうが!」


司会

「金田一先生、かなりお怒りですが、落とし所はありますか?」


金田一

「タコさん、お怒りはわかりますが、逆を言えばタコさんは『愛されキャラ』なんです。そこをまず理解して下さい」


タコ

「何?これだけ毎日のように蔑まれて今更『愛されキャラ』だと?」


金田一

「昔から鉢巻を巻いて扇子を持ったタコキャラは、夜店のタコ焼き屋とかタコ煎餅屋で使われて、日本庶民に深く浸透したのです」


司会

「そうですね。言われてみればイカやクラゲは全くキャラが立ってませんね。これは日本国民がタコさんをいかに愛しているかの証明ですね」


タコ

「そ、そうか?まあ愛されることは悪くない」


司会

「でしょう?」


金田一

「よく言いますよね。『愛の反対語は憎悪ではなく無視だ』と。日本国民はタコさんを無視していないんです」


タコ

「なんかうまく丸め込まれているようでスッキリしないな」


金田一

「わかりました、それでは解決方法はしごく簡単です。すぐに『タコ税』を導入しましょう」


司会

「た、タコ税ですか!」


金田一

「明日からは『タコ』という言葉の使用は1人が一日10回まで無料。それを超えた分は課税対象になります。年末に入ってきた『タコ税』は現政府と折半でいかがでしょうか?」


司会

「そんなことが可能なんですか?」


金田一

「はい、昨日決まった『馬鹿税』のオプションで法案を通します」


司会

「となると、我々は明日から考えてタコとか馬鹿を使わないといけませんね」


金田一

「少しの不便は我慢しましょう。また税収で困っている日本政府の助けにもなります」


タコ

「なるほどな。ということはもっと『タコ』を使ってもらったほうが我々の収入が増えるわけだな」


金田一

「はい。このあたりが落とし所かと思いますが」


タコ

「わかった。そう決まった以上はどんどん使ってくれ」


司会

「納得されましたか?」


タコ

「ああ!大満足だ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る