第56話 ライオン 2回目

金田一

「はい、次は誰かな?どんどん行くよ」


司会

「はい虎の次は、なんとライオンですね。ではライオンさんどうぞ」

威風堂々とライオンが入ってた。


司会

「すごい光景です。虎とライオンが今、すれ違いました!」

会場内で、出て行く虎と入るライオンがすれ違ったときには緊張感でシーンとなった。


ライオン

「昨日に引き続き、またよろしく頼むよ」


司会

「虎さんとライオンさんのツーショットは今日一番の見応えです!ところで今日はどのことわざを提訴しに行きましたか?」


ライオン

「身内の恥をさらすようで気が引けるんだが『獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす』だな」


司会

「えー!これはいいことわざじゃあないですか。『どんな小さな物事でも手をぬかずに全力を尽くす』意味ですよね。私なんかは部活をやるときにはこのことわざを思い出して頑張ったものです」


ライオン

「そうなんだが、実はそれは昔のことなんだ」


司会

「昔の事といいますと?」


ライオン

「どうやら今の若い世代のライオンは、冷めているというか、たかが兎ごときで全力を出すと言う姿に反対らしいんだ」


司会

「といいますと?」


ライオン

「まぁ、我々の育て方が悪かったのだろうけれども、いまどきの若い連中は一生懸命に一つのことに打ち込むことが『ダサイ』とか『格好悪い』というような風潮になってきてるんだ」


司会

「なんか人間社会と同じですね。なんでも要領よく、楽して気楽にやるのが今時の若者の考え方で、昔の『スポ根漫画』は流行らなくなりました」


ライオン

「それどころではない、まったく狩りにも出ない連中は部屋から出ないで『ウーバー・ミーツ』とやらに頼んで餌を運んでもらってきている始末だ」


司会

「ライオン社会も大変なんですね。という事は、今日の提訴内容はこのことわざの破棄ですか変更ですか?」


ライオン

「それを金田一先生と相談したいわけだ。できれば残したいのだが」


司会

「わかりました。と言うことで金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「教育熱心なライオンは生後半年ほどすると、メスライオンが子供たちに狩りの仕方を教えます。もし独り立ちして、狩りができなかったら死活問題だからですね」


ライオン

「我々の年代まではそうだった。その時にちゃんと『獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす』という『気高いライオン道』まで教育を施したんだ。しかし今の若いママ・ライオンは、ちゃんとその趣旨を伝えていないのだ」


金田一

「要する『ゆとり教育』で甘やかしたわけですね」


ライオン

「恥ずかしながら、そういうことだ」


金田一

「私個人の意見ですが、このことわざは人間社会にも含蓄が多いのでどうしても残したいと思うのですがいかがでしょうか?」


ライオン

「わしもできたらそうしたいと思う」


金田一

「ではこうしませんか?このことわざの頭に『昭和生まれの』をつけましょう」


司会

「なるほど!『昭和生まれの獅子は兎を捕らえるのも全力を尽くす』ですか」


金田一

「少し長いですが、こんなものはすぐに慣れます」


ライオン

「それはいいな。何よりそれが事実だからな」


金田一

「でしょう?これならあなたたちが、かつて頑張ったと言う矜持や心意気は後世に残りますよね」


ライオン

「そうだな。ぜひそうしてほしい。これでかつての我々世代の気骨が後世に伝わるな」


司会

「間違いなく伝わりますよ。よかったですねライオンさん」


ライオン

「ああ、満足した!」

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