第55話 虎 2回目

金田一

「はい、お次は誰かな?」


司会

「あ、またもや虎さんですね。さあ、虎さんどうぞお入りください」

威風堂々とした虎の入場で、またもや会場内はしんと静まる。


「ありがとう。昨日の『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ではいい判決をいただきました。満足しています」


司会

「ありがとうございます。満足していただければ、この委員会の存在価値も上がります。さて虎さん、今日は何を提訴されますか?」


「ズバリ、『龍虎、あいまみえる』です」


司会

「え、『龍虎、あいまみえる』って最高のことわざじゃあないですか?なんか最強同士の頂上決戦みたいで」


「まあ、実際に戦わない人間から見たらそうかも知れませんが、我々虎にとってはかなりプレッシャーがあります。要するにこのことわざはストレスが多いのです」


司会

「えー!いいことじゃないですか!我々は最強の龍と、最強の虎が戦う頂上最強決戦のイメージがありますけど」


「いや、そう簡単に言いますけど、それは人間側の勝手な判断であって、我々からしたら

あの龍さんと戦うなんて、とんでもないことなんです」


司会

「といいますと?」


「いいですか?よく考えてください。龍はそもそも水の中にいる動物ですよね」


司会

「はいそうです。水の神様で龍神様として我々も奉っています」


「そうですよね。しかも龍さんは時々、陸上にも出て来て暴れ回りますね」


司会

「まぁ暴れ回るかどうかは別としてそうですね、陸上にも出てきますね」


「しかも、彼らは翼もないのに空を飛び回る事ができます」


司会

「そうですね。まぁわかりやすく言うと現在の海軍と陸軍と空軍をすべて持ってるようなものですね」


「昨日の狼さんの提訴、『前門の狼、後門の虎』の判決を見て私たちは長年のストレスに終止符を打つことに決めました」


司会

「あ、提訴後に『前門の狼20、後門の虎』変えたあれですね」


「はい、あの判決を聞いていて我々虎が同じように果たして20匹で龍に勝てるかな?と自問自答しました。そう言う意味では、自分の力量を考えた勇気ある狼さんの提訴を支持します」


司会

「わかりました。という事はことわざの変更ですね。しかしこの場合、共同提訴になりますから龍さんの委任状が必要になります」


「あ、それでしたらここにあります。龍さんは優しいので『そんなに気を使わなくてもいいよ』と言われましたが」

司会に委任状を手渡す虎。


司会

「わかりました。それでしたら提訴は有効ですね。金田一よろしくお願いします」


金田一

「たしかに龍は空、陸上、水中と3次元を自由自在に移動できます。しかし虎さんの守備範囲は陸上のみですね」


「はい、そうです。陸上だけなら最強を自負しますが、人間のことわざのためだけに龍と簡単に『あいまみえる』とか勝手に言われても、その勝敗は火を見るより明らかですよね。とにかく我々を買い被り過ぎです!」


金田一

「わかりました。虎さんが言うのは要するに狼さんの提訴と同じで、龍さんとのミリタリー・バランスの話ですよね」


「そうです。これはもう歴然と差がありますから。例えば、もし私たち虎と龍のタグマッチが実際にあったとしたらベットをどちらに張りますか?」


司会

「ご本人を前にしてすいません。ノータイムで私は龍さんに全財産を張ります」


「ですよね。龍さんに空とか水中に逃げられたら我々は戦う術を持ちません」


金田一

「わかりました。では前回の『前門の虎、後門の狼』の時と同じ質問をします。あの時は『前門の狼20に対して虎1と』言う比例配分だったんですけれども、正直虎さんは何匹だったら龍さんに勝てますか?」


「恥をかくことを承知で、30匹くらいなら命がけでなんとかします」


金田一

「すると同じように考えると『龍(1)虎(30)あいまみえる』になりますね」


「まだ足りません。最後に『陸上戦のみ』の一文を入れてください。これは保険です」


金田一

「わかりました。では明日からは『龍(1匹)虎(30匹)あいまみえる(陸上戦のみ)』でいいですね」


司会

「なんか長ったらしくて、しかもカッコの注釈が多いですが虎さん、これで大丈夫ですか?」


「はい、すっきりしました。これでなんとか互角に戦えそうです。ありがとうございます」

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