第53話 ハイエナ

金田一

「さーてお次は誰かな?」


司会

「次はハイエナが入ってきましたね。それではハイエナさんどうぞ」


ハイエナ

「はじめまして。はるばるアフリカからやってきましたブチ・ハイエナです。よろしくお願いします」


司会

「こちらこそよろしくお願いします。ハイエナと言えばもう1つしかありませんよね。あれですよね。『ハイエナのような人』、『ハイエナ行為』

ずばりコレでしょう?」


ハイエナ

「はいその通りです。司会さん、そもそも我々ハイエナってどんなイメージがありますか?」


司会

「やはり人のものをちゃっかり横取りするとか、リスクを負わずに利益だけとっていく・・・本人を前にして言っちゃアレですけれども『ズルイ』とか『悪い』のイメージが強いですよね」


ハイエナ

「はー・・・やはりそうですか。全く寂しい限りです」


司会

「といいますと?」


ハイエナ

「私たちは食事を取る時は70%以上は自分たちの力で狩りをします。つまり食べるために努力してるんです」


司会

「え?そうなんですか!なんかいつもライオンとかの食べ残しを漁ってるような怠惰で貧相なイメージしかないんですけれど」


ハイエナ

「まあ日本人からすれば遠いアフリカの我々の食事事情まで確認するのは無理なことですから仕方ありませんけれども、むしろ我々の獲物を横取りするのはライオンの方なんです」


司会

「そうなんですか!」


ハイエナ

「あ、この会場にはライオンはいませんよね」


司会

「はい、先ほど帰られましたからご安心を」


ハイエナ

「そうですか、安心しました。本当はライオンの方がむしろあなた方が言う『ハイエナのようなやつ』なんです。濡れ衣を着せられたようで腹が立ちます」


司会

「それは知らなかった。しかし先ほど言った70%の自助努力という事は30%は他人のモノを横取りしているのではないのですか?」


ハイエナ

「それは彼らが食べられなくなって、見向きもしない死肉や骨を食べているわけで決して横取りではないのです。後片付けですからいわゆるエコですね」


司会

「なるほど、それが本当なら長い間、冤罪を被っていた訳ですね」


ハイエナ

「そうです。いい迷惑です」


司会

「わかりました。では今日の提訴内容は、ことわざそのものの破棄ですか?」


ハイエナ

「いえ、できれば意味の変更をお願いしたいと思います。もし破棄すれば他に私たちの登場することわざがなくなりますから」


司会

「と言うことらしいですが、金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「わかりました。この100年間でアフリカの平原に住む動物の生態が専門家の調査研究でかなり詳しくわかってきました」


司会

「そうなんですか、ではハイエナさんの言う事は事実なんですか?」


金田一

「はいハイエナさんの提訴通り、彼らは本当にリスクを犯して自分で狩りをする動物です。それと生態系の1番上にあるライオンがときどき彼らの獲物を横取りしたりする実態もわかってきました。その実態はナショナル・ジオグラフィックなどでも放映されています」


司会

「じゃぁ提訴どおり、全くの冤罪と言うことになりますよね」


金田一

「そうなりますよね」


司会

「しかしまたなんでそんな悪いイメージがつきまとうようになったんですか?」


金田一

「2つ理由があります。1つ目は、ハイエナはアフリカに住む動物の中で1番顎の骨が固く強い筋力を持っているんです。なんと1平方センチメートルあたり70キログラムと言う強い顎力を持っているので、ライオンなどが食べれなくなった骨を噛み砕くことができるのです」


司会

「なるほど、骨にもたくさん栄養がありますからね」


金田一

「次に彼らの胃袋の強さです。死んだ動物の肉であっても彼らの強い胃袋の力で、食あたりにならずに消化することが可能であることが最近の研究でわかってきました」


司会

「なるほど、強い歯と胃袋ですか」


金田一

「付け加えて言いますが、ハイエナがなんかショボく貧相に見えるのかは彼らが唯一、前脚より後脚が短い体型だからです」


ハイエナ

「そうですか、そこまで理解して言っていただければ嬉しい限りです。何か罪が晴れる気持ちで爽やかな気分になりました」


司会

「そうだったんですか、ずっと冤罪に苦しんでられたんですね」


ハイエナ

「はい、今までは私も甘んじてその言葉を受け入れていましたが、この辺で白黒つけたいと思って今回の提訴になりました」


司会

「金田一先生、ハイエナさんは意味の変更を希望されていますがいかがでしょうか?」


金田一

「わかりました。ではこうしましょう。ハイエナのもう一つの大きな特徴はリーダーがメスである事です」


司会

「え、そうなんですか?」


金田一

「はい、たくさんのオスを従えて狩りの指示やエサの配分もメスが完全に仕切ります。オスはメスの完全支配下にあります」


司会

「なんか、うちの事を言われているようで肩身が狭くなってきました」


金田一

「ですから明日からは『ハイエナのようなやつ』とは『完全に旦那を尻にひいた奥さん』と言うことでいかがでしょうか?」


司会

「なるほど、『いやー、うちのハイエナがうるさいから今日は早く帰るな』とかとか言うのですね。私なんかしょっちゅう使いそうですね」


金田一

「そうですね。今の日本にはかなりの数のハイエナが家庭内に生息していると思います」


ハイエナ

「ありがとうございます。やっと疑いが晴れてなおかつ我々の生命体としての能力を理解していただいたことに非常に喜びを覚えます」


司会

「よかったですね」


ハイエナ

「はい、これからは胸を張って生きていけます。ありがとうございました」

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