第51話 蝿(ハエ)
金田一
「さて、次の方」
司会
「次はハエですね。先ほどから私の顔の周りを飛んでます。それではハエさんどうぞ」
ハエ
「こんにちは。ここは漢字の当て字の提訴も可能かな?」
司会
「可能だと思いますが、金田一先生いかがでしょうか?」
金田一
「本当はこの委員会での対象はことわざ・慣用句ですが、せっかく来ていただいていますので提訴の内容次第では可能としましょう」
司会
「よかったですね。内容次第で可能だそうです。早速ですが今日の提訴は何ですか?」
ハエ
「提訴は『五月蝿い』と書いて『うるさい』をやめていただきたい」
司会
「なるほど、わたしもなんで『五月のハエ』と書いて「うるさい」と読むのかわからなかったのです」
ハエ
「しかもかなり強引な当て字ですよね。どの字が『う』で『る』で『さ』かまったくわかりません」
司会
「たしかにこれ以上強引な当て字はないですね」
ハエ
「でしょう?そもそも司会さんは、五月に我々をうるさいと感じますか?」
司会
「ハエさんには悪いけど、やはりハエが飛んでいるとうるさいとは感じますが特に五月というのがわかりません」
ハエ
「でしょう?さらに受験生から漢字の試験での苦情が出ているのです」
司会
「受験生からですか?」
ハエ
「はい、五月の我々が本当にうるさく感じているならイメージでき漢字もスラスラ出てくるが今の生活環境ではうるさいどころかハエそのものがいないと」
司会
「なるほど、100年前と違い生活環境が衛生的になったのですね」
ハエ
「そうです。日本では衛生的になりすぎて我々の個体数そのものが激減しているのです」
司会
「なるほど、大変なんですね。それでは金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「たしかにハエさんは、殺虫剤の進歩とトイレの水洗化やゴミ収集など公衆衛生の向上に伴い、数は減りましたね」
ハエ
「はい、おっしゃる通りです」
金田一
「昔、私の子供のころは商店街で『ハエ取り紙』に無数のハエが付いているのを見ましたが懐かしいですね」
ハエ
「でしょう?」
金田一
「しかしご本人を前にして何ですが、昔は暖かくなってくると増えてくる嫌な虫の1つでした。嫌われる理由はハエの早い繁殖サイクルにありました」
司会
「たしかに早いですよね」
金田一
「ハエは通常、環境がよければ羽化後4~5日してから産卵を開始。1回に50~150個、一生に500個の卵を産みます。卵から成虫まで2週間足らずです。この環境が揃うのが五月だったのです」
司会
「なるほど、それで『五月蝿い』ですか。昔の人はよく言ったものですね」
ハエ
「しかし今は激減したのでやはり辞退させてもらいたいですね」
金田一
「わかりました。たしかにこの当て字は時代にそぐわないですね。この委員会の趣旨に合致しますので提訴は有効とします」
司会
「ハエさん良かったですね」
ハエ
「ありがとうございます」
金田一
「ところで現代では何がうるさいですか?」
司会
「そうですね、選挙時の演説、ガード下の電車音、ハロウィンの渋谷、クリスマスの商店街、いろいろありますね」
ハエ
「あの、辞退する以上リクエストがあります」
司会
「どうぞおっしゃってください」
ハエ
「勝手ですが、やはり季節を冒頭に入れてほしいのですが」
金田一
「なるほど、それでは少し長いてすがこうしましょう。明日からは『10月31日深夜渋谷い』と書いて『うるさい』にします。
司会
「あ、いいですね。それ、ハロウィンの騒動ですね」
ハエ
「なるほど、これなら現代の受験生にも簡単にイメージできますね」
金田一
「では明日から施行します」
ハエ
「ありがとうございました!」
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