第49話 黄金虫(こがねむし)

金田一

「司会さん、お次は誰かな?」


司会

「はい、黄金虫です。なんかかなり怒っていますよ。はい!ではお待たせしました。黄金虫さんどうぞ」


黄金虫

「百年の間にえらい迷惑を受けた。今日は白黒付けさせてもらうぞ」


司会

「まあまあ黄金虫さん、一体どうしたんですか?」


黄金虫

「ここはことわざの見直しを検討する場所と聞いたが歌でもいいよな?」


司会

「金田一先生、歌でも提訴可能ですか?」


金田一

「はい、むしろことわざよりも歌の方がいい意味も悪い意味も波及効果が大きいので優先します」


司会

「よかったですね。歌でも大丈夫ですよ。しかし黄金虫さんの歌といいますと・・・

ああ『黄金虫は金持ちだー、金蔵建てた蔵建てた』ですか?」


黄金虫

「そうだ」


司会

「またなんでですか?『金持ち』と言われるなんていいじやあないですか」


黄金虫

「これを見てもう一度言って欲しいもんだ」


黄金虫が預金通帳とその他の書類を司会に差し出した。


司会

「あ、通帳残高240円。しかも闇金からの督促状がたくさんですね。これは金持ちからは程遠いですね」


黄金虫

「ああ、来月から生活保護の申請をする予定だ。しかしこの歌のおかげでこんなのが毎年来る」

別の書類を司会に渡す黄金虫。


司会

「これは・・・国税からの査察勧告ですね」


黄金虫

「そうだ、見ての通り明日の金もない我々に歌を額面通り取った国税が、私たちが金を持っていると勘違いして毎年査察に来る」


司会

「それは酷いですね。現状を言っても信じてもらえないのですか?」


黄金虫

「ああ、『海外に資産を移しただろう』とか『裏金が銀行の貸金庫にあるのだろう』とか、とにかくしつこいのだ」


司会

「それは酷い。歌と現実が一致していませんよね。金田一先生なんとかしてあげてください」


金田一

「わかりました。誤解を解きましょう」


司会

「え、誤解なんですか?」


金田一

「この歌は大正11年に茨城県出身の野口雨情が発表しました。茨城県ではあのキラキラした『玉虫』のことを『黄金虫』と呼ぶようです」


司会

「えー、つまり人違いですか?大正時代からということは、約100年間も玉虫と黄金虫が間違えて理解されていたわけですか?」


黄金虫

「これは、今の世の中で言う冤罪ですよね」


金田一

「はい、そうなります。ところで一方の玉虫さんの最近の生活はいかがですか?」


黄金虫

「それはもう、金蔵建てたのは彼らの方で、別荘は世界中にありますし、租税回避でケイマン諸島で会社を持っていたり、クルーザーも何隻か所有しています。最近では仮想通貨とFXで大儲けしているみたいです」


金田一

「要するに黄金虫さんに集中して、国税とかは無縁なんですね」


黄金虫

「はい、国税は専ら私たち黄金虫しか眼中にありませんから玉虫さんは悠々自適の毎日ですね」


金田一

「長年冤罪で苦しまれたようですね。では国税用に歌詞を変えましょう」


黄金虫

「歌詞を変える?どのように?」


金田一

「はい。『黄金虫は人違いー、本当の金持ち玉虫だー』ではいかがでしょうか?」


司会

「いいですね。この歌なら国税は来年からは玉虫に絶対行きますよ」


黄金虫

「はい、なんか玉虫さんの密告みたいになりましたが玉虫さんもそろそろ『年貢の収め時』だと観念してもらいたいです」


司会

「よかったですね」









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