第48話 猿 2回目

金田一

「さて、次の方」


司会

「次は昨日に引き続き猿ですね。それでは猿さんどうぞ」


「よろしくお願いします。昨日はありがとうございました」

猿が小脇に絵本を持って入って来た。


司会

「どういたしまして。早速ですが今日の猿さんの提訴されたいことわざは何ですか?」


「やはり『犬猿の仲』ですわね」


司会

「これも『課長と部長は犬猿の仲だ』などと、顔を見ただけで喧嘩が始まる状況によく使われる有名なことわざですね。一体何が気に入らないんですか?」


「最初にまずお聞きしますが司会さんは私たち猿が犬と喧嘩するところを実際に見たことがありますか?」


司会

「いや、そもそも猿さんの生活自体を長時間じっと見る機会は少ないから見たことはありませんね」


「金田一先生はいかがでしょうか?」


金田一

「いや、私も見たことないですね。そもそも犬と猿が一緒にいる風景自体があまり思い浮かびませんね」


「でしょう?見た人もいないのに『仲の悪い関係』の代名詞だなんて、あまりに酷いと思いませんか?無責任極まりないと思います。しかもこのことわざはかなり断定的ですね」


司会

「たしかにそうですね。言い切ってますね。あ、それとこの件は犬さんとの共同提訴になりますから犬さんからの・・・」


「委任状でしょう?はい、ここにあります」


猿から手渡された委任状を確認した司会

「はい確かに委任状は問題ございません。猿さんの提訴は有効です」


「委任状をあっさり渡していただいたという事実だけでも『仲の悪い』イメージは無いと思いますが」


司会

「なるほど、そうですよね。もし不仲なら委任状取る時にすでに揉めますよね。それより小脇の絵本は何ですか?」


「はい、昔話の『桃太郎』です。このページを是非ご覧ください」

猿は司会に絵本を開いて差し出した。


司会

「あ、犬と猿が鬼に一斉攻撃をかけてますね。共同作戦ですかね」


「でしょう?日本の最も有名な昔話に、我々犬と猿が共同して怖い鬼と戦ったことが明記されていますね?」


司会

「たしかに・・・不仲だとこうはいきませんよね」


「しかもですよ、どういうわけか人事才能のない桃太郎が私たち以外にさらに選んだのは戦闘能力の全くないキジなんですよ。キジは鳥類の中でもおとなしい部類の動物なので鬼ヶ島に行ったときには全く戦闘力にはなりませんでした。つまりほとんどの戦いは私たち犬と猿で戦ったのです」


司会

「そうだったんですね。私も個人的に『ここで、なんで弱っちいキジ?』と子供心に訝しんだものです」


「いずれにしてもこのように証拠がある以上明日から『犬猿の仲』を改めてほしいわ」


司会

「わかりました。それでは金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「はい。まずはそもそもの『犬猿の仲』の語源ですが、2つあります。

1 昔、神様が十二支を決めるため呼び出した動物の到着した順で決めました。犬と猿は仲良く一緒に神様のもとへ向かっていましたが、途中、猿が犬にちょっかいを出して先に到着した。

2 その昔、孫悟空がお釈迦様の住居で大暴れしたときにそれを取り押さえたのがお釈迦様が飼っていた犬であった。

これを期に犬は猿を恨むほど嫌いになり、猿の姿を見るたびに威嚇したと言われています」


司会

「なるほど古くからの因縁なんですね」


「しかし実際には空想の世界の話なので、現在の私たちは全くわだかまりはありません」


司会

「そうですよね。そんなあったか無かったかわからない話で現在まで恨みを維持するのは無理ですよね」


「はい、現実的ではありません」


司会

「わかりました、金田一先生いかがでしょうか?」


金田一

「となると提訴内容はことわざそのものの破棄ですね」


「いえ、なんとかことわざは残して意味の修正をお願いします」



金田一

「それではこうしましょう。明日からは『犬猿の仲』の意味を『仲悪く言われている割に以外にナイスな関係』でいかがでしょうか。まあアニメで言えば『トムとジェリー』をイメージしてください」


「まあ!いいですね。本当のことですものね」


司会

「猫とネズミが『犬猿の仲』ですか?なんかややこしいですが、これはよく喧嘩している割になかなか離婚しない夫婦などに使われそうなことわざですね」


金田一

「はい、ちょっと長い説明になりますが微妙な関係を表すにはいいかと思います。明日から施行されます」


「ありがとうございます。来てよかったですわ」







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