第46話  狼 2回目

金田一


「はい、お次の方」


司会


「次は昨日に引き続き狼ですね。それでは狼さんどうぞ」



「よろしくお願いします」


司会


「狼さん、今日の提訴したいことわざは何ですか」



「はい、『前門の狼、後門の虎』です」


司会


「え、え?いいことわざじやあないですか?」



「ああ、そうなんですが・・・少し気が引けるところがありまして」


司会


「はい、一般には『二つのピンチに挟まれてどうしようもない絶体絶命の危機』を意味しますね。あ、今回は虎さんとの共同提訴になりますから委任状をお願いします」



「はい、これでいいかな?今回の提訴で虎さんは『そんなに気にしなくてもいいよ』とは言ってくれましたが、やはり私たちの気が収まりません」


受け取った書面を確認した司会


「はい、たしかに委任状に不備はありません。狼さんの提訴は有効です。それでは提訴に入ってください。



「はい、ではまず司会さんにお尋ねします。もし司会さんが本当に『前門の狼、後門の虎』の絶体絶命の状況の場合、敢えてどちらを選びますか?」


司会


「厳しい選択肢ですね。しかし私なら虎には勝てる気がしないので二択なら、頑張って狼さんと戦います。ご本人を前にしてあれですが、腕一本くれてやる気持ちで戦えばなんとかなりそうな気がしますからね。虎は無理です、恐らく瞬殺でしょうから」



「でしょう?他の人に聞いてもほぼ100%同じ意見だと思います。ちなみに金田一先生はいかがでしょうか?」


金田一


「私も虎は遠慮したいな。逆立ちしても勝てる気がしない」



「このように、我々狼の戦闘力と虎さんの戦闘力には格段の違いがあることは明白です。虎さんは『そんなに気を使わなくてもいい』と仰っていただいていますが私たちの誇りが、かえって邪魔しています」


司会


「なるほど、つまりこのことわざから辞退したいということですね」



「はい、虎さんの戦闘力に釣り合うように変えていただきたいのが今日の提訴内容です。ライオンか龍なら釣り合うと思うのですが」


司会


「なるほど、よくわかかりました。それでは金田一先生よろしくお願いします」


金田一


「この100年間で人間界は『電灯』と『武器』を手に入れました。以前は真っ暗闇に対して人間は手も足も出なくて、暗闇で狼に出会うことは虎と出会うことと等しかったのです」


司会


「なるほど。明かりの無い昔はパワーバランスが狼=虎だったんですね」


金田一


「それではざっくばらんに聞きますが、狼さんは一対一で虎と戦って勝てますか?」



「め、滅相もない、軽く負けますよ。ですから今日の提訴になっているのです。そもそも虎さんに勝てる位なら初めから提訴などしません」


金田一


「わかりました。それでは別の質問です。何匹で戦ったら虎さんに勝てますか?」



「集団での戦いと言う事ですね。10匹だとちょっとしんどいかな。20匹だったらなんとか勝てる自信があります」


金田一


「わかりました、その辺が落としどころですね。それでは明日から、このことわざは『前門の狼20匹、後門の虎』としましょう」


司会


「いいですね、パワーバランス的にイーブンですね。こういう状況なったら私も無謀にも虎一匹のほうに戦いを挑むかもしれません」



「そうですか。虎さんに戦いを挑んでくれますか?」


金田一


「これで前後どちらを選択しても当事者の致死率が同じになったと思いますがいかがでしょうか?」



「そうですね。数に頼るあたりが『卑怯者呼ばわり』されそうですが我慢して納得します」


金田一


「それでは、明日から施行します」


司会


「狼さんよかったですね」



「はい、スッキリしました」

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