第43話 キツネ 2回目提訴

金田一

「さーて、じゃんじゃん行こうか。次は誰かな?」


司会

「はい、次はまた狐ですね。今回は化かされませんよ。さあ、狐さんどうぞ入ってください」


「まいど、また来ましたさかい、よろしゆうたのみま」


司会

「あ、狐さん。前回の委任状みたいなことしないでくださいね。幸い共同提訴になる虎さんが承諾してくれたので、有効にはなりましたが」


「ああ、あれでっか?あれは単なる大阪のシャレやシャレ!」


司会

「はい、今回はもうシャレはしないと誓ってくださいね。では今日は何のことわざを提訴しに来ましたか?」


「せやな『狐の嫁入り』でんな。あれはもう古ーい話やよってに、そろそろ変えてんか」



司会

「一般には、『天気雨』と呼ばれてますね。天気雨のときには狐の嫁入りがあるという俗信から来ていると聞いています」


「それは現代ではもうおまへんねん」


司会

「といいますと?」


「現代の狐の若いカップルは、親族一同や会社の上司を呼んだりするめんどくさい結婚式は嫌いやねん。最低限の友人とお互いの両親だけ呼んでやる『プチ結婚式』ちゅうのが流行ってまんねん」


司会

「わかりますね。人間でも同じでうちの娘なんか『結婚式にはママは呼ぶけどお父さんは呼ばないからね』って言われてます」


「ましてや、重っ苦しい『文金高島田』なんか着るのは流行りまへんねん。なんやブライダルコンサルいいまんのか?彼らのお勧めの南国の島のチャペルでさっさと式を済ますらしいねん」


司会

「南国の島だから雨は降らないと」


「せや、『晴れた日に雨が降る』なんて言う中途半端な気候の島では絶対やらへんねん。すかっとした、かんかん照りの良いお天気の中で結婚式をやるのが今のトレンドなんや」


司会

「ほえー、進んでいますね」


「その後は2人での写真をInstagramに投稿してみんなに発表するが今のトレンドなんや」


司会

「わかりました。では提訴内容をお願いします」


「時代が変わったさかい、意味を変えてんか?」


司会

「では金田一先生、よろしくお願いします」


金田一

「はい、「お天気雨」の正体ですが

1つにははるか遠いところにある雲から降った雨が上空の強い風によって流されてくる場合、もうひとつは雨を降らせた雲が、雨が地上に到達する前に強い風で消えてしまった場合があります」


司会

「なるほど、共通の要因は『上空の強い風』だったんですね。これは勉強になります」


「せやろ?狐関係おまへんやんか」


金田一

「しかし長野県などで伝えられる俗信があります。

1 だいたいが雨の日に嫁入りをする狐たちが、日中の嫁入り行列を人間に見られない様に雨を降らせているのが天気雨が「狐の嫁入り」と呼ばれる理由。


2 ずっと雨が降らない村が、狐をいけにえにして雨を降らそうと、男前の村人が狐の娘を騙して嫁入りさせようとした。しかし途中、狐の娘を気に入ったその男は、『これは罠だから逃げて!』と言うのだが、狐はその男が好きになったので、『いいんです』と人間の娘に化けたまま嫁入りをし、村人たちにいけにえにされた。すると晴れている空から大粒の雨が降ってきた。と言う話です」


「要するに狐の娘を騙したわけでんな。聞けば聞くほど、酷い話でんな」


司会

「なんか泣けてきますね」


金田一

「それでは、思い切ってこうしましょう。明日から『狐の嫁入り』と言う意味は『海外のプチ結婚式』に変えましょう。そのほうがすっきりしますし、暗いムードはつきまといません」


司会

「ということは、うちの娘も『狐の嫁入り』をやるわけですね。今から南国の島が楽しみです」


「いやいや、司会はんはそもそも式に呼ばれてませんやん」


司会

「あ、」


金田一

「それでは、明日から施行と言うことでよろしくお願いします」


「わかりました。おおきにな。ほなさいなら!」


またもや「ドン!」と言う音とともに白い煙を残して狐の姿は既になかった。

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