第41話 龍 2回目提訴
金田一
「さて、次の方」
司会
「次はまたもや龍ですね。それでは龍さんどうぞ」
龍
「今日もよろしくお願いします」
司会
「龍さんのことわざは多いですからね、いろいろご不満もお有りなんでしょう。さて今日はどのことわざを提訴されますか?」
龍
「やはり『逆鱗に触れる』ですね」
司会
「一般には『優しい人間でも痛いところを突かれると激怒する』ということですね。主に目上の人に使いますね」
龍
「はい、私の81枚の鱗(うろこ)のうち、あごの下に1枚だけ逆さに生えてるのが逆鱗です。これは他の鱗よりも柔らかくできています」
グイっと首を起こして喉元を司会に見せる。
司会
「あ、ありますね。逆さに向いた小さな鱗が・・・こ、これを触ったらヤバいんですね」
龍
「昔はね」
司会
「え?昔って今は大丈夫なんですか?」
龍
「試しに触ってみてはいかがですか?」
司会
「いえいえ!龍の逆鱗に触れるなんて滅相も無い!まだ死にたくありませんから!」
龍
「せっかくだから少しだけ。いい記念になりますよ。絶対怒りませんと約束しますから」
司会
「ほ本当ですか?絶対怒らないでくださいね。ではお言葉に甘えて、ちょっと触りますよ」
目の前の喉元の逆鱗に、恐る恐る指で触る司会。
それを見てにっこり笑う龍。
司会
「あれ?本当に怒りませんね」
龍
「はい、私たちが怒る一番大きな理由は実は逆鱗には保険が効かないからなんです」
司会
「はあ、保険・・・ですか?」
司会
「はいあなた方の前歯が保険が効かないのと同じ理由です。ちょっとこれを見てください」
そう言って司会にパンフレットを手渡す龍。
「ついに登場!
逆鱗保険
貴方の一番弱いところを不測事態から生涯守ります。
60歳からでも入れますから安心です。
○○保険 株式会社」
司会
「逆鱗保険・・・ですか?」
龍
「はい、勧誘員が熱心でして・・・掛け捨てで少し高いのですが、もともと優しい私たち龍の『すぐ怒る凶暴な生き物』のイメージを払拭できるなら安いと思いまして先日加入したばかりです」
司会
「わかりました。それでは怒らなくなった龍さんの提訴内容は、意味の変更と言う事ですね」
龍
「はいそうです」
司会
「それでは、金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「元来イギリスを発祥とする保険制度は当時危険であった船舶を海難事故から守る『海上保険』からスタートしました」
司会
「はい、今でも保険会社の名前に『海上』という文字が名残りとして残ってますね」
金田一
「この100年間で保険会社は、人間の不測事態に対してさまざまの保険を作り販売してきました」
司会
「そうですね。『地震保険』『製造者責任保険』『ガン保険』『成人病保険』などですね」
龍
「はい、勧誘員がおっしゃるには『逆鱗保険』は今年の新商品らしいですね」
金田一
「わかりました、要するにその『逆鱗保険』により龍さんは『逆鱗』を守られて安全になったわけですね」
龍
「はい、もう触られても先ほどのように怒りません」
金田一
「龍は元来、人間に危害を与えることはありませんが、喉元の『逆鱗』に触れられることを非常に嫌うため、これに触られた場合には激昂し、触れた者を即座に殺すとされてきました。このため『逆鱗』は触れてはならないものを表現する言葉となり、『帝王の逆鱗に触れて左遷された』などと比喩表現されました」
龍
「そうですね、やはり凶暴のイメージがありますね。そもそも私たちは外観に似合わず大人しい性格なんですよ」
司会
「そうですよね、龍さんはいつも物腰がジェントルですよね」
金田一
「それではこうしましょう。『逆鱗に触れる』は意味を変えて『以前は触れなかったものが触ることが出来るようになった』の例えではいかがでしょうか?」
司会
「いいですねそれは。付き合って長いカップルから『そろそろ逆鱗に触れていい?』なんて言う甘い会話が聞こえてきそうです」
龍
「はい、それで私たちが『怖い存在でない』ということが伝わるのであれば満足します」
金田一
「わかりました。では明日からこれを施行します」
龍
「今日はありがとうございました。保険に入ったかいがありました」
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