第40話 鬼 2回目提訴

金田一

「はい、次は誰かな?」


司会

「はい。あ、鬼ですね。昨日に引き続き2度目の登場です。それでは鬼さんよろしくお願いします」


「昨日はありがとうな」


司会

「はい『鰯の頭も信心から』の真実もわかり、こちらこそお礼を言います。鬼さんそれで今日はいったいどのことわざが気に入らないんですか?」


「知れたことよ。『来年のことを話すと鬼が笑う』だ」


司会

「なるほど、一般には『まだ計画も立てていない将来のことをあれこれ言っても仕方ない』と言う意味ですが、何かご不満でもあるんですか?」


「試しに、ちょっと来年の話をしてみろ」


司会

「あ、はい。来年は東京オリンピックが開催されます」


「それで?」


司会

「あれ?笑いませんね。それでは2025年には万博が大阪で開催されます」


「それがどうした?」


司会

「やはり笑えませんか?」


「当たり前だ、面白くない話はおまえたちでも笑わないだろうが。M1グランプリの方がよほど笑えるわい」


司会

「はあ、申し訳ありません」


「しかも、一方で『昔のことを言うと鬼が笑う』というのがあるな」


司会

「ありますね、たしかに。『済んでしまったことをあれこれ言っても仕方ない』という例えですね」


「このワンセットのことわざで鬼は『いつも笑ってるソフトな印象』を受けて甚だ迷惑してる。因みになんか昔の話をしてみろ」


司会

「あ、はい。昔、私は彼女と付き合ってわずか3日でふられました」


「ぷっ」


司会

「あ、今少し笑いませんでしたか?」


「わ、笑っとらん!それはおまえが男としてあまりにも情け無いからふられたのだろうが」


司会

「はい、それは反省しています。あ、鬼さん、少し脱線しましたので話を元に戻します。今日の提訴内容をおっしゃって下さい」


「要するにだ、『いつも鬼は笑っている』という弱っちいイメージをどうにかしてくれ」


司会

「わかりました。それでは金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「鬼さん、完全に誤解してますね」


「何、誤解だと?」


金田一

「はい、そもそも我々人間たちは鬼さんがいつも笑ってるようなソフトなイメージは持っていません。それどころか現代でも鬼さんは常にグレートな存在なのです」


「ほう・・・ではグレートに考えている具体的な例を言って見せろ」


金田一

「アニメ、ワンパンマンでは災害レベルという設定があって、その中で『鬼レベル』は『街全体の機能が停止または壊滅の危機』となっています」


司会

「あ、『虎レベル』よりさらに上ですね」


「ほう・・・それは知らなかった。しかし虎より上にランクインしてるのはまんざらでもないな」


金田一

「それどころか最近の若者たちの間では鬼とは、『鬼○○』の形で、後に続く言葉を強調する若者言葉が流行っています」


「何?若者たちにか!例えばどんな言葉があるんだ?」


金田一

「たくさんありますよ。例えば、『鬼ツヨ(鬼のように強い→非常に強い)』『鬼ヤバ』『鬼アツ』『鬼ウマ』『鬼キモ』など数えたらきりがないですね。若者言葉では他にも、『超』や『マジ』、『激』など強調する接頭辞がありますが、その中でも一番強い意味で使われています」


「そんなにも現代の若者たちに鬼が支持されているとは知らなんだ。要はリスペクトしてくれているんだな。これはワシの勉強不足だ」


金田一

「でしょう?100年前に比べて鬼さんの『最強』の認知度は飛躍的に上がったのです。今や『鬼』ブームと言っても過言ではありません。ですから、すこしぐらい笑ってあげてもいいと思いますがいかがですか?」


司会

「さっきも、私の話に少し笑いましたしね!」

司会が『鬼の首を取ったように』笑って言った。


「ゴホン!わ、わかった今の若者に免じて今回の提訴は取り下げる!」


司会

「それでは『提訴取り下げ』でよろしいですね」


「鬼に二言はない。それより現在の若者たちに礼を言っておいてくれ」


金田一

「わかりました。たしかに伝えます」


「今日は気分良く帰れるわい」

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