第33話 熊
金田一
「はい、お次は誰かな?」
司会
「はい、熊ですね。何やら鼻息が荒いですよ。では熊さんよろしくお願いします」
熊
「今日は言わせてもらってもいいですか?」
司会
「はい、熊さんもちろんそのための委員会ですから。今日は何を提訴しますか?」
熊
「明日から『臥薪嘗胆』の意味を変えて欲しいのです」
司会
「一般に『復讐や目的を遂げるために苦心し、努力を重ねること』と言うことわざですね。しかし熊さんの名前が入ってませんよ?」
熊
「そうなんです。省略されていますが後半の肝を舐めるのは実は我々熊の胆なんです」
司会
「なるほど、たしかそうでしたね。であれば名前がなくても熊さんの提訴は有効です」
熊
「このことわざは虎視眈眈と復讐の為に我慢をすることですよね」
司会
「そうです、確か由来は中国の故事からきてますね。日本でも三国干渉を受けた日露戦争の前に使われたのは有名です」
熊
「ところで司会さん、最近の健康ブームはご存知ですか?」
司会
「はい、もちろん知っています。私の家内がまさにハマっていて毎日フィットネスジムに通ったりサプリを飲んでいます」
熊
「では話は早いです。この箱を見て下さい」
司会に薬品の箱を手渡す熊。
司会
「熊胆と書いてますね」
熊
「はい、最近の健康サプリです」
司会
「え、200錠で12000円ですか!いい値段ですね」
熊
「はい、我々の肝は消化器系によく効きますから最近では値段はウナギ登りです」
司会
「ちょっと説明書を読みますね。『ツキノワグマやヒグマの胆のうを乾燥させて作った動物性生薬 熊の胆は、消化器系全般の万能薬として知られています』とありますね」
熊
「でしょう?我々の肝はことわざのように苦いかもしれませんが実は胃腸にいい薬なんです。なんでもウルソデオキシコール酸というのがいいらしいです」
司会
「なるほど、ということは熊さんの提訴は意味の変更ですね」
熊
「はいそうです。是非ともよろしくお願いします」
司会
「わかりました。それでは金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「いいことわざですね。わたしは個人的には大好きです。一般に『中国の春秋時代、呉王夫差が父のかたきの越王・勾践を討とうとして、いつも薪の上に寝て身を苦しめ、またその後夫差に敗れた勾践が、いつか会稽の恥をそそごうと苦い熊の胆を嘗めて報復の志を忘れまいとした』といういい内容ですね」
熊
「先生、実は我々には関係ないのですが最近では安眠できるように薪指圧というのがあるそうです」
司会
「え、あの痛い薪で指圧するのですか?」
熊
「はい、睡眠不足の方に安眠できるように首の後ろの『完骨』と『安眠』という経絡に薪のような木を当てるそうです。経絡というのは『北斗の拳』で有名になりましたが要するに人体にあるツボです」
金田一
「木をツボに当てて安眠できるのですか?」
熊
「はい、効果覿面らしいです」
司会
「すると夫差は安眠するために、あえて薪の上に寝ていたと・・・」
熊
「多分・・・」
司会
「しかも勾践は胃腸が良くなるように苦い熊の胆を舐めたと・・・」
熊
「多分・・・」
司会
「すると決して『辛い思いをして報復の志を忘れまいとした』わけではないのですね」
熊
「多分・・・割とゆるゆるやってたんではないでしょうか?」
司会
「もしそうなら我々は大変な誤解をしていたわけですね。金田一先生!」
金田一
「わかりました。それでは明日からこうしましょう。『臥薪嘗胆』の意味は『ゆっくり安眠して胃腸を整えてから復讐すること』でいかがでしょうか?」
熊
「多分それが事実だと思います」
司会
「それでは明日から施行されますがよろしくお願いお願いします」
熊
「わかりました。ありがとうございます。これでゆっくり冬眠できそうです」
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