第34話 豚

金田一

「さてと、お次は誰かな?」


司会

「はい、豚です。では豚さんお入りください」


「こんにちは、今日はよろしくお願いします」

小脇にポスターを抱えた豚が入ってきた。


司会

「こちらこそよろしくお願いします。豚さんといえば先ほど馬さんの指摘があった『豚に真珠』が真っ先に思い浮かびますが。今日は何を提訴されに来ましたか?」


「はい『豚もおだてりゃ木に登る』です」


司会

「一般に『能力の低い者でも、おだてられて気をよくすると、能力以上のことをやり遂げてしまうことがある』という例えですね」


「はい、おっしゃる通り我々はいろいろなことわざで『能力が低い』、『汚い』、『臭い』、『だらしない』の代表を100年間甘んじて一手に引き受けてきました」


司会

「そうですね、たしかに『豚児』、『豚小屋のよう』、『たくさん食べたら豚になるよ』など豚さんが出てくる言葉はマイナスのイメージしかありませんね」


「はい、関西の子供たちには『アホが見ーる、豚のケーツ』なんて全く意味ない言葉を言われて我々の品位が下げられています」


司会

「きっと子供たちは童話で読んだブーフーウーなんかで間抜けなイメージが定着してるのでしょうね」


「これは人間世界では風評被害と言うのではないでしょうか?全く根拠のないことで悪者にされていますので・・・」


司会

「おっしゃる通りですね。私が豚さんの立場なら大激怒しますね」


「しかしそんな逆風の中、我々に光明が差しました」


司会

「え、光明とは何ですか?」


司会に映画のポスターを差し出す豚

「このポスターを見てください」



司会がポスターをを広げて見せる。

「巨匠、宮崎監督が放つ痛快アニメ。紅の豚が颯爽とアドリア海を飛ぶ!『飛ばない豚はただの豚だ!』絶賛上映中」


司会

「あ、」


「宮崎先生のおかげで我々は今、動物界で一番ダンディな存在になったんです」


司会

「この映画は娘と一緒に見に行きました。たしかに主人公ポルコ・ロッソには『間抜け』や『汚い』のイメージはゼロですね」


「でしょう?それどころか、むしろ間が抜けていて憎めない悪役たちは『空賊』の人間たちですね」


司会

「はい、『空賊』たちは遠足に来ていたたくさんの子供たちにすらバカにされていましたよね」


「あの中のセリフで『なあポルコ、空軍に戻れよ、お前の腕なら今なら俺たちの力で何とかするから』と仲間におだてられますね」


司会

「豚がおだてられましたね」


「そうです。彼はその後、木に登るどころかなんと空戦をするのです。しかも『飛ばない豚はただの豚だ』の映画史に残る名セリフを吐いて颯爽と戦いに向かいます」


司会

「カッコいいシーンでしたね」


「さらに言いますが『豚に真珠』なんて『いいモノの区別がつかない』例えで言いますが、ポルコ・ロッソはいい銃弾か悪い銃弾かを瞬時に区別するシーンはご存知かと」


司会

「あ、浜辺で椅子に座り明日の戦闘で使う銃弾を選別するシーンでしたね。惚れ惚れしました」


「しかも街中で『愛国国債を買ってください』の勧誘に『そんなものは人間同士でやってくれ』とダンディに切り返します」


司会

「これも惚れました!あ、なんか映画の話に没頭していまいそうです。金田一先生この辺りでよろしくお願いします」


金田一

「私もあの映画は大好きです。マドンナ役のジーナなんかはポルコにゾッコンでしたね」


「先生も見ていたとは光栄です!」


金田一

「確かにあのアニメで日本中の子供たちの豚さんに対するイメージは確実に変わったと思います」


「ですよね!ご理解いただきありがとうございます」


金田一

「それでは豚さんの提訴を受け入れて明日からは『豚もおだてりゃ空を飛ぶ』でいかがでしょうか?」


「いいですねそれは!『木を登る』よりスケールがでかくて我々豚たちも納得します。感謝します」


司会

「感謝するなら我々にではなくて、やはり宮崎監督ですね」


「確かにそうですね。今日はありがとうございました、来てよかったです」

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