第32話 スズメ
金田一
「さーて、ドンドン行こうか。次は誰かな?」
司会
「はい、次はスズメですね。さあ、スズメさんどうぞ入ってください」
大勢のスズメが場内に入って来ていきなり賑やかになった。
全員が「人権擁護」と書いたハチマキをしている。
スズメ
「「まいどです、今日はよろしゆうたのみます」」
司会
「す、凄い大人数ですね。コテコテの大阪弁ということは狐さんと同じでわざわざ大阪からのお越しですか?」
スズメ
「せやねん、みんな天王寺からきましてん」
司会
「遠路はるばるお疲れ様です。で、今日は何のことわざに提訴しに来ましたか?」
スズメ
「この際はっきり言いたいねん。『スズメの千声、鶴の一声』を変えて欲しいねん」
司会
「あ、それでしたら共同提訴になりますから鶴さんからの・・・」
狐
「委任状ですね。ほれ、ここにおますねん。鶴さんかなりしぶちんで最初は納得しまへんでしたけんども大勢のスズメの力で勝ち取りましたんや」
スズメから手渡された委任状を確認した司会。
「はい確かに委任状は問題ございません。スズメさんの提訴は有効です。しかし渋々鶴さんが同意されたということは、なんかいきなり穏やかではありませんね」
スズメ
「ほな司会はんに聞くけど、僕たちのこの『スズメの千声、鶴の一声』のことわざは知ってまっか?」
司会
「いや、普通は短縮されて『鶴の一声』だけが有名ですね。『今日の会議は社長の鶴の一声で終わった』などで使われますね」
スズメ
「せやろ?そもそも僕たちが短縮されてること自体が気い悪いねんけどな。で、意味はなんでっか?」
司会
「一般には『千のつまらない意見よりも地位や学識の高い人の一声で決まること』の例えですね」
スズメ
「せやねん、このことわざはどう考えても僕たちスズメが『つまらない意見を言う代表』にされてまんな。すなわち我々の人権が無視されてまんな。これがどない考えても全員納得いきまへんねん」
また会場内がピーチクパーチクと騒然となった。
司会
「だってそれは仕方ないでしょう。誰がどう見てもスズメさん方よりも鶴さんのほうが声がはるかに大きいし内容も理論的だから」
スズメ
「そこやねん、問題は!」
司会
「は?問題といいますと?」
スズメ
「この100年間で世の中は民主主義になってきたんや。司会はんもそれぐらいの事はわかりまっしやろ?」
司会
「はいもちろん。特に戦後の日本はアメリカに習って民主主義を目指してきたからその成果だと思います」
スズメ
「せやねん、昔はただ単に金持ちの意見や声の大きい人の意見が通った暗黒の時代やったんや」
司会
「そうですね、被選挙権も明治時代は三十歳以上の男性のみで直接税を15円以上納めた者のみでしたからね」
スズメ
「せやねん、もりそば一杯が1銭の時代の15円やで。そんな人は当時『スズメの涙』ほどしかおらへん」
司会
「わ、わかりました。スズメさん、では提訴内容をおっしゃって下さい」
スズメ
「まず短縮せずにちやんと『スズメの千声、鶴の一声』と全部言うことやな。やっぱズボラはあかんズボラは!次に意味の変更やねん」
またもや会場内がピーチクパーチクとやかましい。
司会
「わ、わかりました。そんなにみんなで一斉に言われなくても聞こえています!き、金田一先生お願いします」
金田一
「まず、社会や企業などの組織で物事を決める方法は以下の3つあります。
1 多数決
2 下から上がってきた複数の意見をトップが選択して決定
3 トップのみの判断で決済
これが一般です」
スズメ
「せやねんな、しやーから力の無い僕たちは1の多数決を是としてまんねん」
金田一
「なるほど、この100年間の間に『力のない者の意見が通る時代になってきた』と言う事ですね」
司会
「最近では、政治家や企業家の言う意見が一歩間違えればいきなりツイッターなどで『炎上』してしまいますからね。ヒヤヒヤものですね」
スズメ
「せやねん、しゃーから僕たちはSNSやネットワークを駆使して権力にモノ言えるんや」
金田一
「そうですね、そういう意味では力のない者も戦える、いい時代になりましたね」
スズメ
「実はここだけの話なんやけどTwitterのスズメマークは最初は違うマークやったんやけど僕たちスズメが『炎上』さしてスズメのマークにしたんや」
司会
「へー、全く知りませんでした。力ありますね」
スズメ
「せやねん、僕たち怖いモン無しやねん!」
金田一
「それではこうしましょう。明日からは『スズメの千声、鶴の一声に勝る』これでいかがでしょうか?」
会場内がピーチクパーチクと歓喜の声が一斉に沸いた。
司会
「し、しかしスズメさんはいいかもしれませんが鶴さん大丈夫ですかね」
スズメ
「心配せんでもええと思うよ。時代は変わったんやし。もし向こうさんが何かゆうてきてもまたSNSで『炎上』させて一発や!」
司会
「わかりました。それではこれで決定ということでよろしいでしょうか?」
スズメ
「よろしおま。これで気が済みましたさかい帰りますわな。ほなおおきに、さいなら」
「勝訴」と大きく書いた旗を掲げながら騒々しいスズメたちが会場内から去っていった。
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