第31話 雷神

金田一

「はい、お次は誰かな?」


司会

「これは珍しい!神様の参加ですね、雷神です。本委員会に神様が来ていただけるとは光栄ですね。それでは雷神さんどうぞお入りくださいませ」


雷神

「よっこらしょっと。よろしく頼むぞ」太鼓を背中に背負った雷神が椅子に座った。


司会

「雷神さん、今日はいい天気だからお休みなんですか?」


雷神

「ああ、今日と明日、明後日はワシの出番は無いから行楽日和だ」


司会

「ということは週末まではいい天気なんですね」


雷神

「そうだ、週末の夜は山沿いでちょっと働くシフトが入っているがな」


司会

「みなさん週末、山沿いでは天気が崩れそうですのでご注意下さい。さて雷神さん、今日の提訴はどのことわざですか?」


雷神

「決まっておるわい、ズバリ『地震・雷・火事・親父』だな」


司会

「一般には人間にとって『恐ろしいモノ』の代名詞ですね」


雷神

「そうだ人間には決して抗えないとされている代名詞の2番目にワシらが入っているのはまあ当然といえば当然だな」


司会

「はあ、雷神さん。先ほどの鷹さんの提訴とパターンが似てますね。何となく言いたいことが見えてきました。言いたいことは最後の『親父』ですよね、今回の提訴対象は・・・」


雷神

「そうだ!ズバリ『親父』だ!お前たち人間は今現在『親父』が本当に怖いか?」


司会

「たしかにこの100年間で『親父』の地位ほど失墜したものはありませんね」


雷神

「ワシはアニメが好きだから『巨人の星』で星一徹がちゃぶ台をひっくり返すシーンを見て同じことわざに入っていることをかつては誇りに思ったこともあった。しかし何だ!今の『親父』のこの体たらくは!」


司会

「恥ずかしながら、私の家でも娘に『お父さんの入った後のお風呂はイヤ』とか『お父さんの下着と一緒に洗わないで』とか平気で言われています。正直、自分自身が情け無いです」


雷神

「なんと情け無い・・・世も末じやな。男として少しは恥ずかしいとは思わんのか?」


司会

「はあ、今更言っても後の祭ですがこれも私が甘やかして育てた結果です。あ、なんか私の反省会みたいな流れになってきました。金田一先生助けて下さい」


金田一

「はい、一般にここで使われる『親父』には『家庭内のお父さん、家長』という意味と子供たちにとっての監視役だった『近所のおじさん』の二つの意味があります」


雷神

「そうだ、この100年で両方ともめっきり弱くなってしまったな。それは上から見ていてよくわかる」


金田一

「はい。私なんかは昔、柿を盗もうとしたら近所の『親父』に力一杯殴られた経験があります。だから町の犯罪抑止力として機能していましたね」


雷神

「ふん!今は逆に、若いヤツらにボコボコにされて返り討ちにあってるではないか!」


司会

「さらにひどい『親父狩り』なんて物騒な言葉もありますよ」


雷神

「情け無い・・・むしずが走るわい。とにかく急いで明日から変えてくれ。それが提訴内容だ!」


金田一

「わかりました。それでは雷神さんの提訴を受けて、全く怖く無くなった私たち『親父』は潔く地位を譲ります」


雷神

「当たり前だ!で、どう変えるんだ?」


金田一

「思い切ってこうします。『地震・雷・妻・娘』ではいかがでしょうか?」


司会

「先生、いきなり二つも変えるのですか?」


金田一

「はい、今の『親父』にとっては妻と娘のどちらが怖いか多分甲乙付けがたいと思います」


司会

「たしかに・・・我が家でもそうです」


金田一

「幸い『火事』は江戸時代に比べて消防対策や防火設備が整っていますから現代社会では怖く無くなったのでついでに消去します」


雷神

「なるほどな『地震・雷・妻・娘』か・・・ゴロもいいな」


司会

「では雷神さん、決定でよろしいでしょうか?」


雷神

「ああ、実はここだけの話だがワシもカミさんには頭が上がらんのじや」


司会

「えー!あの雷神さんがですか!これはなんか一気に親近感を覚えますねー!」


雷神

「これ、大きな声を出すでない。内緒じやぞ」


司会

「わかりました。いずれにしろ快諾ありがとうございます。ではこのことわざが明日から施行されます」


雷神

「あー、また100年後に来るから親父連中は精進するのじゃぞ」







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