第28話 烏(カラス)

金田一

「はい、お次の方」


司会

「次は烏ですね。それでは烏さんどうぞ」


「今日は、よろしくお願いします」


司会

「はい、こちらこそよろしくお願いします。烏さんのことわざはたくさんありますが、今日の提訴はどのことわざですか?」


「はい、ズバリ『烏合の集』です」


司会

「一般的には『統率が取れてなく秩序がない集まり』のことを言いますね」


「その通りです。なんかゴロツキのようなイメージで極めて心外です」


司会

「しかし、実際我々から見ても烏さんの生活習慣や行動様式はどう見ても秩序が取れているようには見えないんですが」


「では、ちょっとこれを見てください」

カラスは司会にスマホを差し出した。


司会

「なんですかこれは?」


「これは我々のネット社会の中で流行っている『ゴミゴミ・アドバイザー』というアプリです」


司会

「え?『ゴミゴミ・アドバイザー』ですか?」


「はい、日本全国で出されるゴミの場所、時間、内容などがリアルタイムに分かるようになっています」


司会

「すごく便利ですね」



「はい、毎朝われわれはこのスマホの中の状況を見てどこどこのエリアにはいいゴミが出ているとか、どこどこの繁華街では餌がたくさん落ちているなどと非常に精度の高い情報が見ることができるんです」


司会

「ほんとですね。東京都内の各場所の今日のゴミ出し状況が全て表示されてますね」


「なおかつ、もう手をつけたかどうかって言う進捗状況までわかるようになってます。この横のパーセンテージが進捗状況を表しています。例えばここですが、既に98%となっていますね。ここには今から行っても餌はありません」


司会

「なるほど。この『いいね』が多い場所ほど良い餌がある場所ですね」


「はい、すごいでしょ?このアプリができたおかげでわれわれは無駄なくゴミの集積所に行くことができ、なおかつ一つのエサを巡って争う必要もありません」


司会

「へー、変われば変わるもんなんですね」


「はい、ですからこのアプリのおかげでわれわれは鳥類の中でも1番統制が取れて秩序がある行動をとっているわけなんです」


司会

「なるほど、人間側からはそれは全然わかりませんでした。盲点ですねこれは」


「ですから、今日の提訴はことわざそのものの意味を変えて欲しいんです」


司会

「なるほどわかりました。では金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「これは江戸時代の人間の大変な誤解が招いたことなんですね」


司会

「先生、誤解といいますと?」


金田一

「江戸時代、カラスは非常に知能の低い鳥だと思われていました」


「そんな!それだけでもう名誉棄損です!」


金田一

「最近の鳥類の研究によってカラスは非常に高知能であるということと、コミニケーション能力が高いと言うことがわかってきました」


「でしょう!だから今日はここに来たのです!是非誤解を解いてください!」


司会

「まぁまぁ、烏さん落ち着いて」


金田一

「このアプリ『ゴミゴミ・アドバイザー』の各場所の星の数は誰が評価しているんですか」


「もちろんエンドユーザーが行ってみて良かったら『いいね』のボタンを押して、その数で評価しています」


金田一

「つまり主催者側の主観ではありませんね」


「はい」


金田一

「なるほど、情報に嘘がないということですね。つまりかなり信憑性が高い情報を集団で共有しているわけですね」


「はい、私もいろいろな鳥に聞きましたがここまで情報共有できているのは我々烏だけでした」


金田一

「わかりました。ではこうしましょう。『烏合の集』というのは『見た目は秩序がないようであるが実は情報統制された素晴らしい集団』でいかがですか?」


司会

「なんか隠れた暗殺集団っぽくていいですね」


「はいそういう解釈ならば我々も溜飲が下がります。今日はきて本当によかったです」


司会

「では明日から施行と言うことでよろしくお願いします」


「はい。今日はどうもありがとうございました」

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