第27話 天狗
金田一
「はい、お次は誰かな?」
司会
「はい、天狗ですね。何やら顔を真っ赤にして鼻息が荒いですよ。では天狗さんよろしくお願いします」
天狗
「100年間待ちましたが、今日という今日は言わせてもらいます」
高下駄を履いた天狗が会場に入ってきた。
司会
「はい、天狗さん何やら気合が入っていますが今日は何を提訴しますか?」
天狗
「明日から『天狗になる』を変えて欲しいのです」
司会
「一般に『調子に乗って周りに威張る、うぬぼれる』と言うことわざですね」
天狗
「そうです。これが誠に不愉快でなりません!」
司会
「天狗さん、どう不愉快なんですか?」
天狗
「なんで私たちが『威張り散らす』代名詞になってるんですか?」
司会
「それはやはり、天狗さんの鼻が高いからだと私は思うんですが・・・」
天狗
「なんで鼻が高かったら威張り散らす代名詞になるんですか?それだったら『ピノキオになる』でも『クレオパトラになる』でもいいんじゃないんですか?」
司会
「確かに言われてみればそうですよね」
天狗
「海外ではピノキオなんてのは威張るどころか『よわっちぃイメージ』がありますよ」
司会
「そうですね。言われてみれば・・・」
天狗
「なんで『鼻が高いのが=威張り散らす』のかを説明していただきたい」
司会
「わ、わかりました。金田一先生助けてください」
金田一
「ああ、これは我々人間界の完全な早とちりなんです」
司会
「先生、早とちりとは?」
金田一
「平安時代に、傲慢な僧侶は死んだ場合には『天狗道』に入りそのまま天狗になると信じられていました」
天狗
「そ、そんな勝手なことを言われても困ります。迷惑です!」
金田一
「そこはお詫びします。しかしやはり妖力を持ち、鼻の高い天狗さんは我々人間界の中でも強いイメージを持たれていると思うんです」
天狗
「強いイメージを持たれるのは結構ですが今までに威張ったりうぬぼれたりした事は無いです。実は我々は鞍馬の山を中心として山の中で遭難した人間たちをわからないように安全な道まで誘導したりして、むしろ『謙虚を心掛けている』ほどなんですよ」
司会
「そうなんですか。それはありがとうございました。登山者を代表してお礼を言います」
金田一
「天狗さん、それではどのようにしたらいいか、提訴の内容おっしゃってください」
天狗
「このことわざは我々天狗の存在を忘れられないためにも残しておいて欲しいのですが、意味にもっとリスペクトがほしいのです」
金田一
「リスペクトといいますと?」
天狗
「金田一先生は知らないと思いますが、我々天狗の社会に逆に『人間になる』ということわざがあります」
金田一
「それは知りませんでしたね。『人間になる』と言うことわざの意味はどういう意味なんですか?」
天狗
「このことわざは、人間にリスペクトをして『志を持って努力し発展すること』になっています」
金田一
「すばらしいことわざですね。そんないいことわざに人間が使われているなんて本当に感謝します」
天狗
「ついこの前までは農業しかやってなかった人間が努力して科学技術を発展させ短い時間でロケットで月まで行くようになったことを評価したことわざです。この期間、我々天狗の文化水準は変化無しですから」
司会
「なるほど、リスペクトの塊ですね」
天狗
「我々天狗の世界では人間に対しては非常に良い言葉を使っているのに対して、反対に人間界では我々に対しては侮辱するような言葉を使っていることに異議を申し立てます」
金田一
「わかりました、知らぬこととはいえ申し訳ありませんでした。それではこうしましょう。『天狗になる』の意味を明日から変えまして、『本当は威張ってもいい人ほど実は非常に謙虚』ではいかがでしょうか?」
司会
「天狗さんいかがですか?」
天狗
「いいですね、まさに我々の真の姿を現しているし何よりリスペクトを感じます。他の天狗たちもみんな喜ぶと思います」
司会
「では明日から施行します」
天狗
「了解しました。今日は本当にありがとうございました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます