第23話 ライオン

金田一

「さて、次の方」


司会

「次はなんとライオンですね。それではライオンさんどうぞ」


ライオン

「よう、今日はよろしくな」


司会

「さすがはライオンさんですね。先ほどの虎さん同様貫禄があります。百獣の王が入ってきた途端に会場内はまたもやしんと静まりかえっています」


ライオン

「まあ、そう言わずに気楽にやろうや」


司会

「さすがに百獣の王ライオンさんに『気楽にやろうや』って言われてもなかなか緊張してしまいますね。早速ですが今日はライオンさんは何のことわざを提訴されに来ましたか?」


ライオン

「やはり今日は『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす』だな」


司会

「これは私も好きなかなり良いことわざに入りますが、一体何がお気に召さないんですか?」


ライオン

「その前に聞きたいが、人間たちは我々ライオンが自分の子供をそんな深い谷に落としてるのを実際に見たことがあるのか?」


司会

「いえ、少なくとも私はありません。金田一先生はいかがですか?」


金田一

「ジャングル大帝の冒頭で見たような気がしますがいずれにしろあれはアニメですからね」


ライオン

「確かに我々は、愛情のあるわが子でも敢えて厳しい教育をする事は実際やっている。しかあまり誇張はいかんな、誇張は」


司会

「はあ、誇張と言いますと?」


ライオン

「そもそもわれわれが普段住んでるところはアフリカの大草原だ。山岳地帯ではない。すなわちそんな深い谷がある場所では生活をしていないと言うことをまず理解してほしい」


司会

「そうですね。山の中でライオンを見るというのはあまりイメージできませんね」


ライオン

「そうだろうが。それが理解できたら次の話に移る。『千尋』と言う深さを表す単位の事を話をしたい。もちろん人間の使う尺度なのでわれわれはよくわからないのだが1尋は約1.82メートルと聞いている」


司会

「そうですね。流石によくご存知ですね」


「1尋が1.82メートルと言う事は千尋は1000倍だからおよそ1820メートルの崖から子供を落とすと言うことになる。これはもうスカイダイビングの領域だ」


司会

「はい、計算上はそうなりますね」


ライオン

「普通に考えてみろ、1820メートルの崖の上から子供を落としたら間違いなく全員が死ぬぞ。いやむしろ生きている方が不思議な位だ」


司会

「確かにこれはもう教育ではありませんね」


ライオン

「ましてこのことわざの説明には『生まれたばかりの赤ん坊を落とす』となっている。生まれたばかりの赤ん坊を1820メートルから突き落とすライオンと言うものは幼児虐待の生き物の象徴にはならないか?」


司会

「な、なりますね絶対!これはもう教育ではなくて犯罪行為ですね」


ライオン

「そうだろうが、すぐになんとかしろ!迷惑だ!」


司会

「わ、わかりました。金田一先生助けてください」


金田一

「要するに高さにご不満なんですね」


ライオン

「そうだ、常識の範囲内の高さにしろ」


金田一

「ライオンさん、どの位の高さの崖が子供ライオン教育の許容範囲ですか?」


ライオン

「高くても15-6メートルだろう?プールの飛び込み台くらいだ。それ以上は怪我では済まないからな」


金田一

「わかりました。それではズバリ『獅子16』にしましょう。ゴロもいい」


司会

「え、いきなりぶった斬りましたね」


ライオン

「16mか。なるほどな、1820mよりは遥かに低い。意味は何かな?」


金田一

「意味は『いくら教育に熱心なライオンでも子を落とすのは16mが限界数値だ』です。シンプルでいいと思いますが」


司会

「ライオンさん、いかがでしょうか?」


ライオン

「悪くない。これならギリ『幼児虐待』のイメージからは外れる。実は今までこのことわざは少し長く言いにくいと感じていた、それも見事に修正されている。ありがとうな」




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