第22話 鴨

金田一

「さてと、お次は誰ですか?」


司会

「はい、カモですね。多分あのことわざですよ。それではカモさんお入りください」


カモ

「こんにちは、よろしくお願いします」


司会

「こちらこそよろしくお願いします。早速ですがカモさんの提訴したいことわざは何ですか?だいたい予想はできていますが、多分ネギが出てくるやつでしよう?」


カモ

「あ、やはりわかりますか?ズバリ『カモがネギを背負ってやってくる』を見直して欲しいのです」


司会

「やはりこのことわざは嫌でしたか?」


カモ

「嫌も何も、私たちカモは『負け組』の代名詞にされていますから100年間非常に惨めでした。また子供たちからも『何でこんなことわざを引き受けたの?』と問われて困っています」


司会

「それはそうですよね。『いい鴨が来た』とか『あいつはまさにカモネギだ』とか勝負事に弱っちい奴の代名詞ですからね」


カモ

「はい、さらにことわざ辞典などでカモネギの説明の挿絵をよく見ますが絵的に非常にマヌケな絵が多いんです。ですからこれを読んだ子供たちはカモ=間抜けという図式が出来上がっているのではないかと心配しているんです」


司会

「カモさん、残念ながらその心配は的中しています。正直に言うと子供たちどころか我々大人も『カモ=間抜け』と言う図式で染まっています」


カモ

「はー、ヤッパリそうなんですね。残念でなりません」


司会

「申し訳ありません」


カモ

「そもそも私たちってそんなに弱く見えますか?」


司会

「はあ、そう言われてみれば。しかしイメージが既に勝ってしまってますので今さら払拭しきれないというのが正直なところです」


カモ

「ですよね。しかし実際カモ社会の中では競馬や競輪で勝っているカモもいるし、パチンコで生計を立てているカモもいます。昨年は仮想通貨では『億りカモ』も出た位です」


司会

「そ、そうなんですか!『億りカモ』ですか!全然イメージと合わないですよね。失礼ですが」


カモ

「動物社会の中でも決して我々カモは弱っちい生き物ではないと言う認識をぜひお願いしたいのです」


司会

「なるほどよくわかりました。それでは提訴内容はことわざの破棄と言うことでよろしいですか」


カモ

「いいえ。私たちカモは実はこのことわざが唯一なのでぜひことわざは残しつつ意味を変えていただきたいのです」


司会

「なるほどよくわかりました。それでは金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「私の大学時代の友達にもまさに『カモ』と言うあだ名の友人がいました。彼はいつも麻雀に負けていたからです。何の気なしに使っていた言葉ですがカモさんに心の負担をかけていたようですね」


カモ

「ご理解していただけますか」


金田一

「よく理解しました。そもそもこのことわざは鴨鍋に使う副食材のネギを今まさに食べられようとしている『カモ自身』が持ってきてくれると言う事が起源です」


カモ

「金田一先生、私は思うんですが、これはまさに日本のホスピタリティを表しているんじゃないかと思うんです」


司会

「え?ホスピタリティですか?」


カモ

「はい。今日本は外国からやってくる観光客のリターン率が一番多い国と聞きます。この理由は日本人の『おもてなしの心』つまりホスピタリティが世界一だからです」


金田一

「なるほど、カモがネギを背負ってくるこの姿こそが日本のホスピタリティの象徴だと言うわけですね」


カモ

「はいその通りです。今からまさに食べられようとする主体が、さらに客に美味しく食べていただき喜ばせるために副食材まで持ってくると言う気の配り方こそ真のホスピタリティと言えるのではないでしょうか」


金田一

「まさに命を賭けたホスピタリティですね」


カモ

「来年あなた方の世界では東京オリンピックが開かれると聞きます。つまり世界中から東京に観光客が集まるわけですよね。ですからなんとしてもそれまでにこのことわざの意味を変えていただきたいと思います」


金田一

「わかりました。それではこうしましょうか。明日からは『カモがネギを背負ってくる』と言うことわざの意味は『命をかけてもお客様を喜ばそうとする真の日本のおもてなしの心』とします」


司会

「いいですね、それは。しかも明日から施行だと充分東京オリンピックの開幕までには浸透しそうですね。カモさんそれでいかがですか?」


カモ

「はい!今までと180度変わった意味になりましたから子供たちにも顔向けできそうです。今日はどうもありがとうございました」








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