第17話 鯖(さば)

金田一

「はい、次行きましょう」


司会

「次は鯖ですね。今回、魚の仲間からは初参加です。では鯖さんどうぞお入りください」


「よろしくお願いします」


司会

「鯖さんと言えばひとつしかありませんから提訴はズバリ『鯖を読む』でしょう?」


「はい、その通りです」


司会

「一般には『数をゴマかすこと』の例えですね」


「はい、なんかいつのまにか我々を数えるだけで悪事の例えに使われているのが納得いきません」


司会

「そうですね。実はわたしも前から、なんで『鯖を読む』ことが数をゴマかすことになるのか正直不思議だったんです。金田一先生、ことわざの由来をお願いします」


金田一

「はい、実は鯖さんは江戸時代では『腐りやすいモノ』の代名詞でした。だから魚河岸なんかでは早く数えないと腐ってしまうからパッパッと早く放り投げて数をゴマかしやすかったのですね」


「はい、その理由はおじいさんから聞いています。だから今までは私たちもある程度納得していました」


司会

「え?というと今は違うのですか?」


「はい、この百年間で腐りやすい魚を運ぶ冷凍技術が格段に進歩しました。クール宅急便などがいい例ですね。また私たちを腐らせないための防腐剤技術の進化も目を見張るモノがあります」


司会

「つまり江戸時代のような早い腐り方はしないということですね」


「そうです。ですから腐る心配が無くなった以上は私たちを心おきなくゆっくり数えて欲しいのです」


司会

「そうですよね、ゆっくり数えたらもう誰もゴマかせないですよね」


「はい、近代の技術革新のおかげでそろそろ悪事の例えに使われるのを勘弁願いたいのが今日の提訴内容です」


司会

「提訴内容はわかりました。私もしごく当然の要求だと思います。では金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「それでは鯖さん、ことわざそのモノの抹消を希望されますか?」


「いえ、他の動物のように複数ことわざに使われていたら抹消も考えましたが、何せ私たちが登場することわざはこの一つしかありません。鯖の広告宣伝効果を考えると意味を変えてことわざ自体は残してほしいのですが」


金田一

「わかりました。では鯖さんこうしましょう。ことわざは据え置きで意味は明日からは『昔は簡単にゴマかせたけど今ではゴマかしがきかない』例えではいかがでしょうか?」


司会

「いいですね。いきなり『もう悪いことはできないぞ!』という犯罪の抑止にも使えそうなことわざになりましたね。鯖さんいかがですか?」


「はい、大満足です」

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