第18話 鰯(いわし)
金田一
「さあて、お次は誰かな?」
司会
「はい、また魚の仲間ですね。鰯です。それでは鰯さんお入りください」
鰯
「よろしくお願いします。今日は先ほど出て行った鯖さんと一緒に来ました」
司会
「あ、鯖さんとは仲良しなんですか?」
鰯
「はい、いつも魚屋では隣に並んでますから常に良き相談相手です」
司会
「そうですか。で、今日の提訴はアレですよね。鯖さんと同じで一つしかありませんから」
鰯
「はい、お察しの通り『鰯の頭も信心から』です」
司会
「一般には『どんなつまらないモノでも一旦信じるとありがたく思える』例えですね」
鰯
「はいそうです」
司会
「では鰯さんの提訴内容を教えてください」
鰯
「その前に司会さんにお聞きしたいのですが。私の頭ってそんなにつまらないですか?」
司会
「いやこうやって間近に見ると銀色で艶があり決してつまらないことはありませんが」
鰯
「ではなぜつまらないモノの代表格になっているのですか?」
司会
「や、やはり他の魚に比べて小さいからではないかと思います」
鰯
「なるほど、つまらないの定義は大きさなんですね。ではチリメンジャコさんかメダカさんに譲りたいと思います。特にメダカさんだと私たちと文字数も同じだから違和感なく使えますね」
司会
「ちょっと待って下さい。そこまで一方的に言われましても・・・」
鰯
「しかも、ことわざとは関係ありませんが私たちの漢字は『魚ヘンに弱い』なんです。いかに辛抱強い私たちもここまでコケにされると頭にきますよ」
司会
「な、なるほど。長年のストレスが溜まっているようですね。しかし漢字の見直しは本委員会の範疇外になります。金田一先生助けてください」
金田一
「あ、鰯さん。勘違いですね」
鰯
「何が、勘違いなんですか?」
金田一
「あなたの頭がつまらないのではなく、あなたの頭を使った儀式がつまらないんです」
司会
「え、先生。それはいつたいどんな儀式なんですか?」
金田一
「江戸時代の節分の夜に庶民はせっかく追い出した鬼が家に入らないように鰯の頭を柊(ひいらぎ)の枝に刺して玄関の上に飾りました」
鰯
「あ、それは私も昔の本で読んだことがあります」
司会
「へー、そんな儀式があったんですね。で、実際には効果はあったんですか?」
金田一
「さあ?それは本人に聞いた方が早いと思いますが。ちょっと朝一番に来た鬼さんの携帯に電話してみてください」
司会
「そうですよね。鰯さん暫くお待ちください」
ポケットからスマホを取り出して鬼に電話する司会
「ツーツー、あ!鬼さんですか。朝はありがとうございました。は?いや、実は今鰯さんが来ていて、昔江戸時代に鬼さん避けの儀式で玄関に鰯さんの頭を飾ったことがあるそうなんですが実際には効果はありましたか?」
鬼
「ああ、あれか。臭くてかなわんかったから鰯の頭がある家には敢えて入らなかったわい」
司会
「わかりました。ということは効果はかなりあったんですね。ありがとうございました」
金田一
「魔除けの効果が、あったことが実証されましたね。鬼さんご本人が言っているのだから間違いありませんね」
鰯
「いやー、なんか嬉しいです。知らないうちに人の役に立てていたんですね!面目躍如です」
司会
「ということはこのことわざは続投でいいですか?」
鰯
「いや、実はそこで折り入ってのお願いがあるんです」
司会
「何でしょうか?長い間不快な気持ちをさせてきたので何なりとおっしゃって下さい」
鰯
「実は今、我々で宗教法人の設立をしようと考えています」
司会
「え、鰯さんが宗教法人を作るんですか?」
鰯
「はい、多くの鰯が言うには『せっかく我々の頭を信じてくれた人がすでにたくさんいるのであればこのまま宗教法人設立を目指そう』という気運になっています」
金田一
「なるほど、面白いですね。鰯さんは数ある動物のなかでも宗教法人設立に一番近い位置にいますからね」
鰯
「御理解ありがとうございます」
金田一
「しかし超えなければならないハードルが3つあります」
司会
「何ですか?その3つは?」
金田一
「まず、教義と教祖」
鰯
「両方すでに用意してあります」
金田一
「次に信者数」
鰯
「鰯全員と一部の人間ですから信者数は何兆に達すると思います」
金田一
「最後に礼拝施設を含む教団本部」
鰯
「あ、これも私たちを理解していただいているある水産会社さんが提供してくれます」
金田一
「では大丈夫だと思います。ちなみに宗教法人の名前は何ですか?」
鰯
「はいそれも決まっています『鰯の頭教』です。ですからことわざに一文字追加をお願いします」
金田一
「なるほど、『鰯の頭教も信心から』ですね」
司会
「あ、これは教団の布教活動のいいPRになりますね」
鰯
「はい、ことわざの意味は据え置きで結構です」
金田一
「わかりました。ぜひ明日から施工しましょう」
鰯
「本当に何から何までありがとうございます」
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