第15話 鹿

金田一

「はい、お次の方」


司会

「次は鹿ですね。我々委員会としてもそろそろ来ると思っていました。それでは鹿さんどうぞ」


鹿

「よろしくお願いします。今日は奈良から来ました」


司会

「ひよっとして馬さんとの共同提訴じゃあないですか?」


鹿

「あ、わかりますか?やっぱり。これ馬さんからの委任状です」


受け取った書面を確認した司会

「はい、たしかに委任状に不備はありません。鹿さんの提訴は有効です。提訴対象はズバリ『馬鹿』ですね!」


鹿

「はい、なんか話が早いから助かります」


司会

「やはり『馬鹿』に鹿さんが登場するのは嫌ですか?」


鹿

「いや、我々年取った鹿は慣れていますからいいんですが今の『ゆとり世代』の鹿からブーブー言われているんです」


司会

「え、年取った世代は肯定しているんですか?」


鹿

「はい、そもそも冷静に考えると『馬鹿』の由来は人間サイドが我々馬と鹿の区別もつかない人のことを指しているだけで決して我々に対しての悪意があるとは思っていません」


司会

「そうなんですか、そこまで深く理解していただいているとはかえって恐縮です」


鹿

「いや、もっと言えば、私たちも息子を叱る時には『この馬鹿息子が!』とか通行中他の鹿と角が当たった時には『馬鹿野郎!どこ見て歩いてんだ!』なんて普通に使っているんです。今更『馬鹿』の言葉なしでは日常生活が不便なほどです」


司会

「ということはどうやら提訴内容はことわざの破棄では無さそうですね」


鹿

「はい、使用そのものはいいんですが、今ここでこうやって話しているこの瞬間にも日本中で何万回も『馬鹿』という言葉が使用されていると思います」


司会

「そうですね、職場、学校、街中いろいろな場所で馬鹿相手に今現在も使っていることでしょうね」


鹿

「先ほどの『ゆとり世代』の鹿に著作権に詳しいものがいましてJASRACっていうんですか?音楽の著作権を持っている組織の話をするんですよ」


司会

「ん?著作権?JADRAC?いきなり話が見えなくなりましたが。私の理解力不足ですかね、金田一さん助けて下さい」


金田一

「はい、お話を聞いていると要するに鹿さんの提訴内容は『使うのはいいが回数を制限しろ』と『使ったら使用回数に応じて金払え』の2点ですね」


鹿

「はい、ご理解いただきありがとうございます。ズバリその通りです。決して私たちの世代の総意ではありません」


金田一

「わかります。あなた方世代は今までそのような提訴を一度もしませんでしたからそこは理解します」


鹿

「はい、なんでも『ゆとり世代』の連中は『せっかく悪い言葉を我々馬と鹿が引き受けているのだから金に換えろ』という主旨なんです。まあ、我々世代の教育の悪さを露呈するようで恥ずかしい限りですが・・・」


司会

「なんか、今までに無い種類の要求ですね。金田一先生落とし所ありますか?」


金田一

「わかりました、解決方法はしごく簡単ですね。すぐに『馬鹿税』を導入しましょう」


司会

「ば、馬鹿税ですか!」


金田一

「明日からは『馬鹿』という言葉の使用は1人が一日10回まで無料。それを超えた分は課税対象になります。年末に入ってきた『馬鹿税』は現政府と折半、残りを馬さんと折半でいかがでしょうか?」


司会

「そんなことが可能なんですか?」


金田一

「今、ちょうど所得税の増税法案検討をやっている最中だからドサクサに紛れて通します」


司会

「ということですが鹿さんいかがでしょうか?」


鹿

「これならばきっと馬さんも若い世代の鹿も納得しますね。むしろこれからはもっと『馬鹿』を使って欲しいですね。ありがとうございました」










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