第14話 猿
金田一
「さて、次の方」
司会
「次は猿ですね。それでは猿さんどうぞ」
猿
「よろしくお願いします。私は猿小学校の校長を務めています」
司会
「え、猿の世界にも小学校があるんですか?」
猿
「はい。小学校どころか中学、高校、大学まであります。『猿知恵』と言われそうですか、この100年間で猿の教育制度が大分変わりました」
司会
「なるほど、早速ですが猿さんの提訴されたいことわざは何ですか?」
猿
「やはり『猿も木から落ちる』ですわね」
司会
「よく使われる有名なことわざですね。一体何が気に入らないんですか?」
猿
「最初にまずお聞きしますが司会さんは私たち猿が木から落ちるところを実際に見たことがありますか?」
司会
「いや、そもそも猿さんの生活を長時間じっと見る機会は少ないから見たことはありませんね」
猿
「金田一先生はいかがでしょうか?」
金田一
「いや、私も見たことないですね」
猿
「でしょう?見た人もいないのにあまりに酷いと思いませんか?無責任極まりないと思います。しかもこのことわざは『落ちる』と言い切っていますからかなり断定的ですね」
司会
「たしかにそうですね」
猿
「たしかにこのことわざができた100年以上前の猿の中には確立した教育制度がなかったためにまれに木から落ちる者もいたかも知れません」
司会
「なるほど、そのたまに落ちた猿さんを見て我々の先達がことわざを作ったということですね」
猿
「はい、その後私たちは『猿真似』で人間と同じような小学校を作り、小猿の教育に力を入れてきました。国語、算数、理科、社会と人間の真似をして教えていますが体育だけが人間と違い『木登り』となっています」
司会
「なるほど、木の登りかたを中心に教育するわけですね」
猿
「これには二つ理由がありまして。一つ目は当然『木から落ちない猿』の育成です」
司会
「二つ目はなんですか?」
猿
「モンスターペアレンツの出現です。ある日小猿が木から落ちて怪我をした時にその小猿の両親がものすごい勢いで校長室に怒鳴り込んできました。『この責任は一体誰が取るんだ』と裁判も辞さずという勢いです。また余談ですがこのモンスターペアレンツは『ドングリが不味い』という理由で給食費を払いません」
司会
「なんかどこかで聞いたような話ですね」
猿
「そこで我々は対抗策としてそれ以降は子供たちにはまず最初に『木から落ちない方法』を徹底的に教育するようにしました」
司会
「例えばどのようにですか?」
猿
「まずは滑りそうな木や折れそうな木の見分け方を教えます。次にそのような『落ちそうな木』にはあらかじめ尻尾を絡ませてから渡るようになど常に『安全第一』を教えています」
司会
「なるほど徹底教育ですね」
猿
「それはそうです。落ちて怪我をすることと害獣から身を守るために命がけですから」
司会
「命がかかっているから真剣なんですね」
猿
「はい、ですからそれ以来猿の小学校では『木から落ちる猿』など一匹もいません。私が保証します」
司会
「わかりました、金田一先生いかがでしょうか?」
金田一
「となると提訴内容はことわざそのものの破棄ですね」
猿
「いえ、現代の教育を受けた猿は木から絶対に落ちないので修正をお願いします」
金田一
「それではこうしましょう。その教育成果を信用して明日からは『猿は木から落ちない』でいかがでしょうか」
猿
「まあ!いいですね。意味はなんですか?」
金田一
「意味は『どんなことも徹底的に教育すれば完璧になる』の例えにしましょう」
司会
「あ、これは人間社会にもためになることわざですね」
猿
「ありがとうございます。来てよかったですわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます