第13話 タヌキ

金田一

「はい、お次の方」


司会

「はい、次はタヌキですね。ではタヌキさんどうぞお入り下さい」


小脇に日経新聞と一冊の分厚い本を抱えてタヌキが入ってきた。


タヌキ

「ども、タヌキです。今日はよろしく」


司会

「はい、よろしくお願いします。早速ですがタヌキさんはどのことわざを提訴しに来ましたか?」


タヌキ

「は、はい。『捕らぬタヌキの皮算用』です」


司会

「一般には『まだ手に入っていないうちからそれを当てにし、あれこれ計画を立てること』の例えですね。これが気に入らないんですか?」


タヌキ

「は、はい。全体的なこのことわざの雰囲気はなんか『愚か』とか『間抜け』みたいなムードが漂っていますね」


司会

「そうですね。淡い架空の売り上げを期待している哀れな様子がイメージされますね」


タヌキ

「実はこう見えても私は長年、株式投資をやっているんです」


司会

「え、タヌキさんが株式投資を?今流行りのデイトレードですか?」


タヌキ

「は、はい。私は短期のデイトレではなく長期投資です。自分で言うのも何ですがかなり投資パフォーマンスはいいほうなんです」


司会

「それは羨ましい!人間でも株式投資で儲けてる人は僅かの一握りと聞きます。後学のために秘訣があれば教えていただけませんか?」


タヌキ

「は、はい。秘訣というほどではありませんがここに持って来た『会社 四季報』を読み込むことなんです」


司会

「でも『会社 四季報』なんて株式投資する人は誰でも読んでいますよね」


タヌキ

「は、はい。その中の『収益予想』にだけ注目するんです」


司会

「し、収益予想ですか?」


タヌキ

「はい、この数字はまさにことわざと同意で企業が『まだ手にしていない将来の売り上げの数値』なんです。とにかくこの数値が大事なんです」


司会

「すいません、株式投資は素人なもので。詳しく説明をお願いします」


タヌキ

「分かりやすく言うと、投資したい企業の来年や再来年の収益予想が当初の予想といかに乖離しているかどうかを判断します」


司会

「は、はあ?」


タヌキ

「当初の予想よりも売り上げが多くなると予想されたら『収益予想の上方修正』といい、この銘柄だけを絞って買います」


司会

「は、はあ?」

理解が追いつかない司会をよそにタヌキが会社四季報を広げて熱弁する。


タヌキ

「私はこれを『上方修正銘柄一点投資法』と名付けています」


司会

「あ、あの。それと今回のことわざの見直しに何か関係があるのでしょうか?金田一先生助けて下さい」


金田一

「要するにタヌキさんの主張は企業がまだ売り上げてもない来期の収益予想が株式投資に一番大事だということですね」


タヌキ

「は、はい。ご理解いただけましたか?」


金田一

「むしろタヌキさんの提訴対象の『捕らぬタヌキの皮算用』の数値を精査する作業が一番大切な要素だということですね」


タヌキ

「その通りなんです。どうか『愚か』や『間抜け』のイメージがあるこのことわざの意味の見直しをお願いします」


金田一

「それではタヌキさんの全面主張を受け入れて、いっそのこと『捕らぬタヌキの皮算用』の意味は『株式投資において1番大事な要素』と言うことにしましょう。これならば『愚か』や『間抜け』のイメージは払拭されますね」


司会

「タヌキさんこれでいかがですか?」


タヌキ

「はい納得しました。それでよろしくお願いします」







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