第9話 鵜(う)
金田一
「さーって、お次は誰かな?」
司会
「鵜ですね。それでは鵜さんどうぞ」
鵜
「よろしくお願いします。ゴホゴホ」
司会
「あれ、首に包帯をしてますね。体調がよくないんですか?」
鵜
「はい、連日の仕事のし過ぎで喉をやられました。ゴホゴホ」
司会
「それは大変ですね。さて今日はどのことわざを提訴されますか?」
鵜
「はい、私は何としても『鵜の目鷹の目』の変更を提訴します。ゴホ」
司会
「でしたら共同提訴となり、鷹さんの委任状が必要ですが」
鵜
「それでしたら、そろそろ鷹さんも来られます。あ、鷹さんこっちこっち」
鷹
「申し訳ない、遅れました」
司会
「これはこれは、鷹さんも臨席ですか?」
鷹
「はい、あまりに現状が酷いので鵜さんの応援に来ました」
司会
「しかしさすがに『鵜の目鷹の目』と並び称されるお二人ですね。間近に見ると本当に鋭い眼光です。しびれますね。」
鵜、鷹
「「ありがとうございます」」
司会
「お二人揃っていますから委任状なしでも鵜さんの提訴は有効です。さて鵜さんの提訴内容をお聞かせください。一般に『鵜の目鷹の目』とは常に儲け話やいい獲物はないかと探し回る例えに使われていますね」
鵜
「はい、そうなんです。わたしは水中の魚を、鷹さんは空中から獲物を探す鋭い視力のことを例えたんですね」
司会
「なんかスナイパーみたいでカッコいいじゃないですか。私なんかの一般人はあこがれますよ。一体何がご不満なんですが?」
鵜
「はい、この百年間で我々を取り巻く労働環境が激変したのです。ところで司会さん、まず鵜と聞いたら何を想像しますか?」
司会
「まずは長良川の鵜飼ですね。ていうか残念ながらそれしか思いつきません」
鵜
「やっぱりね。では実際に鵜飼の我々の働いている姿を見たことがありますか?」
司会
「もちろんあります。たくさんの紐に繋がれた鵜が鵜匠の指示に従って大勢の観客の前で魚を獲らされて、その後強制的に魚を吐きださせていますね」
鵜
「そこまで理解されているならこの紙を見てください」
司会
「なんですかこれは?」
鵜
「今月の私の仕事のシフト表です。ご覧のとおり土日曜日にも休みはありません。むしろ土日曜は観光客がたくさん来て大変なんです。ゴホゴホ」
受け取った紙を見る司会
「こ、これは酷い!金田一先生見てください、休みが全く無い。これではまるで奴隷以下だ」
鵜
「しかもたくさん魚を取っても全部ピンハネされて美味しくない餌を少々もらう程度の毎日。時々、上空を飛んでいる鷹さんを『自由でいいな』という気持ちで眺めています」
鷹
「ああ、俺は本当に好きな時に獲物を狙うだけの気ままな生活だからな。上から鵜さんの惨状を見て気の毒でならない」
鵜
「ですから今回の提訴は同じ鋭い眼光を持っている我々も実は全然違う職場環境にあると言うことを理解してほしいのです」
司会
「わかりました。毎日本当に大変ですね。それでは金田一先生よろしくお願いいたします」
金田一
「劣悪な労働環境がよくわかりました。わずか100年で変われば変わるものですよね。つまり鵜さんはこのことわざ自体の破棄を求めているのですか?」
鵜
「いえ、せっかく憧れの鷹さんと一緒にことわざに入れていただいているので破棄と言うよりは意味の改善をお願いしたいと思っております。ゴホゴホ」
金田一
「なるほどよくわかりました。それではこれではいかがですか?ことわざはそのまますえ置くとして意味を『一見、同じ職業に見えるが実はその労働環境は全く違う』の例えではいかがでしょうか?」
鵜
「いいですねそれは!鷹さんいかがでしょうか?」
鷹
「うん、もともと『鵜の目鷹の目』っていうことわざは虎視眈々と獲物を狙うあまりいい言葉ではなかったのでそれが今回改善できて俺も嬉しいよ」
司会
「では御両名、納得と言うことでよろしいですね」
鵜、鷹
「「はい、ありがとうございます!」」
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