第8話 カエル

金田一

「さてと、お次は誰かな?」


司会

「はい、カエルなんですがまだ見えてませんね。時間厳守って言ってあるのですが」


カエル

「ここです、司会さんの足元にいます」


司会

「あ、すでにこちらにいらしたんですね。すいません小さいから見えていませんでした」


カエル

「どうも、よろしくお願いします」


司会

「はい、よろしくお願いします。カエルさん今日は何を提訴されに来ましたか?」


カエル

「はい『井の中の蛙大海を知らず』です」


司会

「一般に『小さい社会にいる人たちは大きな社会の仕組みや動向を知らない』という例えですね」


カエル

「はい、おっしゃる通り100年前は全くその通りでした。しかしITが発達した現在は全く違うことになってしまったのです」


司会

「なるほど、IT技術がカエル社会全体を変えたということですか?」


カエル

「変えたというような生易しいものではありません。このことわざの通り、私の息子なんかには大海を知って欲しいから井戸の外に出るようにと言ってるんですが、最近は1度も井戸から出ずに引きこもって一日中ネットばかりしているんです」


司会

「それは大変ですね。ちなみに食事はどうしてるんですか?」


カエル

「家内が虫などを取って来ては息子の部屋の前に置くんですが、会話はほとんどありません」


司会

「人間社会でも同じようなことが起こっており社会問題になっています。カエルさんの世界でも大変だったんですね」


カエル

「我々の世代のカエルはこのことわざに従って大海を知るためにいつも外に出るようにしていたんですが、今の若い世代のカエルたちはLINEやFace Bookを使って世界中のカエルたちと情報交換をしているらしいんです」


司会

「むしろ井戸の中の方が情報があるのですね」


カエル

「はい、ですから外に出ている我々の世代のカエルよりも世界中の情報をよく知っているんです。今や田舎の井戸にいるカエルですらFX取り引きはおろか、仮想通貨なども普通に投資しているありさまです」


司会

「えー、そうなんですか!仮想通貨なんて人間でも気の利いた一部の人しかやっていませんよ」


カエル

「井戸の中って何もやることがないから集中していろいろな情報収集ができるんですね。最近ではビットコインのマイニングなんて若いカエルがやっていますが私たち古いカエルには何のことやらサッパリです」


司会

「たしかに人間社会でも『引きこもり』というジャンルの方たちは外に出ないでも自宅内に閉じこもって大海を知っています」


カエル

「人間の社会の事はよく分かりませんが多分IT技術の進歩で同じようなことが起こってるんではないでしょうか」


司会

「つまり今回の蛙さんの提訴は井戸の中の蛙でも大海を知っていると言うことを言いたいんですね」


カエル

「はい全くその通りです。まさかこのわずか100年間でこんな風にカエルの世界が変わるとは思ってもみませんでした。おそらく今のこのやりとりもITを通じて若いカエルたちは全員見ていることと思います」


司会

「わかりました、凄い時代ですね。では金田一先生よろしくお願いします」


金田一

「カエルさん、まさにその時代の変化に対応するために、この『ことわざ見直し委員会』があるんです。そういう意味では今回の提訴はこの委員会の趣旨と合致しています」


カエル

「そうなんですか、ご理解いただきまして助かります。ですから何とか『井の中の蛙大海を知らず』を 変えて下さい。これは今のカエル社会全員の総意です」


金田一

「ではこれでいかがでしょう?全く逆で『井の中の蛙ほど大海を知る』で」


カエル

「いいですね。意味は何ですか?」


金田一

「意味は『情報さえあれば狭い場所ほど集中して世界の情勢がわかる』の例えでいかがでしょうか?」


カエル

「いいですね。きっと若い連中も喜ぶと思います」


司会

「カエルさんよかったですね。また100年後にお会いしましょう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る