第2話 猫

金田一

「司会さん、次の方は?」


司会

「あ、猫さんが来てます」


「こんにちは」


金田一、司会

「「こんにちは」」


司会

「早速ですが猫さん、今回の提訴内容を教えてください」


「はい、実は『猫の手も借りたい』なんです」


司会

「一般に『仕事や家事が忙しくて大変な状況』のことですね」


「そうなんです」


司会

「それがどう気に入らないんですか?」


「いかに忙しくても本当にこんなモノを借りたいですか?」

可愛らしい肉球のついた両手を差し出す猫。

「期待を裏切るようで心苦しいのですが全く役にたちませんよ」


司会

「たしかに言われてみればそうですね」


「そもそもどんな職種が私たちの手を借りたいと言っているんですか?」


司会

「そうですね。大晦日の蕎麦屋さんとかクリスマスのケーキ屋さんあとはバレンタインデーのお菓子屋さんなんかが毎年言っていますが」


「あ、無理無理。第一私たちの手はモノが掴めないんですよ」


司会

「言われてみれば・・・」


「もし本当に借りたいならあなた達の同族の猿の手か百歩譲ってアライグマの手かと」


司会

「金田一先生猫さんはこのように提訴されていますがいかがでしょうか?」


金田一

「あ、猫さん。全く論点が違いますね」


「はあ、論点ですか?」


金田一

「我々人間はそもそも仕事に使用可能だから借りたいと言っているのではないんです。むしろ使用に適さないモノですら借りたい状態という例えなんです」


「なるほど。でもそれならば『羊の手』でも『鹿の手』でもいいのではないかと思いますが。なんか我々猫が一番能力が無いように思われているみたいであまりいい気持ちはしません」


司会

「ということは猫さんはこのことわざからの辞退を希望なんですか?」


「はい、そのように動物界の『無能の代表』と思われているのならですが」


金田一

「あ、猫さん違いますよ。私たち人間と猫さんの距離感の問題なんです」


「距離感?」


金田一

「はい、いくら『鹿の手』が借りたいと言えども奈良に住んでない限り鹿は私たちの生活圏内にいませんから」


「しかしあなたたちとの距離感で言うなら犬が先でしょう」


金田一

「いえ、猫さんは知らないと思いますが犬の手はすでに結構借りているのです。家庭の番犬をはじめ警察犬、盲導犬、介護犬、麻薬探知犬、爆薬探知犬、災害救助犬など犬の社会でもすでに『猫の手が借りたい』ほどなんです」


司会

「人間社会との距離感が猫さんは犬に次いでナンバー2ということですね」


「なるほど・・・」


司会

「なんとかもう百年間、我慢願えませんか?」


「わかりました。ただし本当に借りたい時は3Kやブラック企業は嫌ですよ」


司会

「はい、お約束します」





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