5.ギブリム ―盟約暦1006年、冬、第9週―

 コー族の住む地下への入口は、ギブリムから見れば稚拙としか言いようがなかった。洞窟の一部が崩落して出来た裂け目を切り崩して、通行しやすいよう坂道にしたのだろうが、ドワーフであれば手抜き工事もいいところだ。


 その坂道の下、地下への入口があったと思しき場所は崩れ、土砂と氷に埋もれている。突き出た木の破片は、壊れた門や扉の名残だろう。今は人間が一人通れる程度の穴が掘ってあり、毛皮を組み合わせて作った即席の幕で覆われている。


 ドルイドのイムサを先頭に中へ入ると、一〇〇人くらいの人間なら余裕で入れる広さの洞窟になっていた。地面に残る大小様々な人間の足跡や、敷物の跡から、たくさんの人間で賑わう場所のようだ。コー族は市場を持っていると言っていたが、おそらくここがそうだろう。


 今はがらんとしていて、入口を守るコー族の戦士以外に人影はなく、必要最低限の照明として松明が数本燃えているだけである。


 コー族の戦士たちは最初にイムサの声と顔を確認していたにも関わらず、中に入ったギブリムに槍を突きつけてランスベルを慌てさせた。ギブリムは槍をちらりと一瞥しただけで、そんな粗末なものに傷つけられる事は無いと分かったので何もしなかった。


 イムサはアシニッド語で戦士たちと話してから人を呼んで怪我人を引き取り、ここで待つようにと言って洞窟の奥に消えた。


 ランスベルは明らかにドワーフを警戒しているコー族の戦士たちとギブリムの間に立って気まずそうにしているが、ギブリムにはそんな事よりも洞窟内を探るほうが重要だ。〈ドワーフの感覚〉に集中すると、奥に向かうイムサたちが出す振動と反響、他にもここで生活する人間たちのそれらによって大体の構造が把握できる。


 この地下集落は地層の裂け目や人工的に作られた横穴で構成されていて、それほど複雑ではない。ドワーフの地下都市に比べればちっぽけで単純なものだ。


 水の気配があり硫黄臭もする事から温泉が湧いているらしい。イムサたちは怪我人を運んで、そこへ向かっている。もっと下にはここより大きな空間があって、北に続いているようだ。


 しばらくして、一人で戻ってきたイムサはギブリムたちを奥へと招いた。


 洞窟内を歩いている間、他のコー族は見かけなかったが、壁の窪みや通路の奥に潜んでいるのがギブリムには分かっていた。武器を持っているかどうかまでははっきりしない。


 いざとなればランスベルを連れて逃げる算段をせねばならないので、ギブリムはアンサーラと相談したかった。洞窟の構造はある程度把握したが、地表に戻るべきか、下の洞窟に向かうべきか、彼女の判断が必要だ。


 だが結局、相談できないまま一行は奥の間に通された。


 その部屋はほぼ長方形をした、白い鍾乳石の美しい部屋だった。中央を温泉が流れて、部屋を硫黄臭のする暖かい蒸気で満たしている。


 部屋の右側にはコー族の男たちが五人座っていて、全員が人間基準で年長者に見えた。一番若いと思われる男でさえ、頭髪の生え際は後退していて白髪交じりだ。


 ランスベルを先頭にギブリムたちは彼らと対面するよう左側に通されて、毛皮の上に座るようにと案内される。ナイフしか持っていないギブリムはまだしも、ランスベルの物々しい長剣やアンサーラの二本の剣も取り上げられず、荷物を調べられもしない。コー族はよほど竜騎士というものを信頼しているらしい。


 もっとも、たとえ素手であってもアンサーラなら一瞬でこの部屋にいる人間を皆殺しにする事ができるし、ギブリムから武器を取り上げるのは不可能だ。それをコー族たちが知っているかどうかは分からないが。


 部屋の一番奥は階段状に高くなっており、一番高い場所には鍾乳石を削って作った椅子があった。その造形の酷さにギブリムは顔をしかめたが、身分の高い者が座るためのものなのは分かる。


 今は、そこに一人の若者が座っていた。整えられた黒髪を左右に分けて胸元まで垂らし、三角形を基本にした模様に編まれた鉢巻で前髪を押さえている。まだ幼さも見て取れる顔には疲労が浮かんでいた。ギブリムの目にはランスベルと同じくらいの年頃に見える。背格好も同じくらいだ。


 イムサはその若者と、続いて五人の年長者に一礼してからランスベルに若者を紹介した。


「族長ロジウです。竜騎士様」


 ランスベルも薄々勘付いていたかもしれないが、自分と同じくらいの年頃の族長と知って少し驚いたようだった。


「我が名は金竜騎士ランスベル。招きに応じて来た」


 ランスベルが下位竜語を完全に習得していない事はギブリムにも分かっている。そのせいで普段の言葉遣いと違って仰々しいのが少し可笑しかった。豊かな髭の下でニヤリとしたギブリムだが、それは誰からも見えないだろう。


 ロジウと紹介された若い族長は笑顔を見せて手を差し伸べた。

「ありがとう、竜騎士様。ロジウです。座る、飲む、食う、話し、するでしょう」


 イムサと同じく拙いものではあったが、テストリア大陸の人間語だ。


「あ……はい。ありがとうございます」


 ランスベルはファランティア語で返して、腕に掛けていた分厚い毛皮や背負った荷物を置いて座った。ギブリムも同じようにし、アンサーラもそうする。


 イムサはロジウの一段下に腰を下ろした。外にいる間は毛皮を何枚も着込んでずんぐりしていたイムサだが、その下は筋骨逞しい男だ。知識の伝承者という役割から想像される体格ではない。年齢は三〇代半ば、といったところか。


 それから、あまり若くない女が三人ほど部屋に入ってきて給仕を始め、イムサはコー族の成り立ちについて話し始めたのだが、これがギブリムには全く気に入らない内容だった。


 ――大昔のこと、森の王国に海賊王が攻めて来た。

 激しい戦いの中、海賊王の娘アイヤは怪我を負い、味方ともはぐれて森の中を彷徨っていた。


 森のドルイドたちは彼女を見捨てられずに保護するが、ドルイドはどの王にも味方しないと宣言していた。彼女を保護すれば、海賊王に味方したことになってしまう。それで、ドルイドたちは娘の正体を隠して怪我が癒えるまで面倒をみる事にした。


 一方、森の国の王子エリアニは森に逃げ込んだ海賊の残党を追っていた。その途中にドルイドの集落を訪れ、アイヤと出会い、二人は恋に落ちる。エリアニは最初、アイヤをドルイドの娘と勘違いしていたが、その正体を知っても気持ちは変わらなかった。


 この事実が知れると、森の国の王はドルイドが海賊王の娘を使って王子を誘惑したと激怒し、海賊王もドルイドが娘を攫ったとして激怒した。


 二人の王に追われたアイヤとエリアニ、そしてドルイドたちを救ったのが竜騎士であった。彼はアイヤの友人であり、彼女が行方不明になったと聞いて探していたのだ。


 竜騎士に助けられて、彼らは〈世界の果て山脈〉まで逃れ、そこでドワーフに保護される。その条件として、竜騎士はドラゴン退治をすることになった。


 ドラゴン退治は成され、竜騎士は去ったが、邪悪なドワーフは彼らを騙していた。ドルイドたちを〈世界の果て山脈〉の北、人間では一日たりとて生き延びられない凍りついた土地へと放り出して門を閉ざしたのだ。


 しかし、アイヤとエリアニ、そして数人のドルイドは生き延びてコー族の祖先となった――。


「ドワーフがそんな事をするとは思えないけど……」


 話を聞き終えて最初にランスベルが言った。ちらりとギブリムのほうを見て、怒っているのに気付いたのか目を反らす。


 ギブリムは子供の頃を思い出していた。イムサの語ったコー族の伝承は、ほぼ間違いなく白竜騎士カティヤの件だろう。当時は幼かったギブリムでさえ、大人たちが苦渋の決断をしたのは理解していた。人間にフレスミル内部の通行を許すなど前代未聞の事であり、それによって人間たちは救われたのだ。


(それが……邪悪なドワーフだと?)


 ギブリムは氏族の名を、そしてヴァルデンの称号を背負ってからは、その名誉を守るため感情的にならないよう自戒してきた。だが、これには黙っていられなかった。


「冗談じゃない。いいか、それまで他種族が足を踏み入れたことのないフレスミルの通行を許して、お前らの祖先を救ってやったのはドワーフだぞ。それもエルフと関わりのあった人間をな。その対価は竜騎士が支払ったが、お前らの祖先とやらは何も対価を払っておらん。そのうえ感謝の気持ちまで忘れて、〝邪悪なドワーフに騙された〟だと?」


 部屋の中は、しんと静まり返った。給仕の女たちもギブリムの怒気に触れて立ち竦む。静かにアンサーラが口を開いた。


「この土地での生活は、誰かを悪者にしなければ耐えられないほど辛く苦しいものだったのでしょう」


「だから許してやれと?」


 ギブリムの怒りの視線をアンサーラは受け止めた。その金と銀が入り混じった瞳は慈悲を願っているようであった。


「彼らにとっては、何世代も前……ずっと昔の話なのです。間違って伝わってしまうこともありますよ」


 ふん、とギブリムは鼻を鳴らした。


「俺にとっては、子供の頃の話だ。白竜騎士が突然やって来た事も、こいつらの祖先とかいう人間たちがフレスミルの大アーチ橋を渡るのもこの目で見たぞ」


「白竜ファーンヴァースは北方に関わりの深いドラゴンだね」


 唐突にランスベルが口を挟んだので、ギブリムは思わず睨み返す。


「そのファーンヴァースと竜騎士にしても、こいつらの伝承とやらでは名前すら残っていない。性別まで違っている始末だ。とにかく、白竜騎士カティヤはドルイドの命を助けるために北へ抜けさせて欲しいと頼み、見返りとしてダーガを退治した。この地に逃れたのは人間たち自身の望みだったはずだ。どんな場所か白竜騎士が知らなかっただけかもしれんがな」


 ランスベルは困ったような顔をした。


「〈世界の果て山脈〉を越えた先、この〈極北の地〉がどういう場所なのかドラゴンたちが知らなかったとは思えないけど……」


「つまり、こいつらの伝承とやらが間違っているって事だ」と、ギブリムはイムサを指差す。


 ギブリムたちはファランティア語で会話していたので、イムサとロジウは話を部分的に理解しているようだった。二人とも口をぎゅっと結んでいる。


 対面に座っている五人の年長者たちは、全く理解できていない様子だ。お互いに顔を見合わせたり肩をすくめ合ったりしている。


 イムサは怒りの表情で立ち上がり、拳を握り締めて言った。

「ドルイド、伝承、正しい。ドワーフ、騙すもの。信じない!」


 ギブリムは怒りを込めて睨みつけたが、イムサは一歩も引かず、両者はしばし睨みあう。


 ギブリムは怒っていたものの、怒りに任せて行動するほど愚かではない。仮に飛びかかったとしても、ランスベルに止められてしまうだろう。ランスベルは緊張した面持ちで腰を浮かせて成り行きを見ている。


 隣に座っているアンサーラはギブリムが暴挙に出ないと分かっているのか平然としていた。皮肉なことに、この場でドワーフというものを最もよく理解しているのはエルフなのだった。


 ロジウが、若さに見合わぬ落ち着いた声で言う。

「止まれ、イムサ。座れ、静か」


 まるでその声が聞こえていないように、イムサはギブリムを睨んだまま微動だにしない。再びロジウが口を開いた。今度はより命令的で力強かった。


「イムサ! ハーサッテ!」


 イムサは振り返ってロジウを見上げ、軽く頭を下げてから、どっかと腰を下ろした。ロジウはそれを見届けて、ギブリムたちに向けて話す。


「伝承、本当、嘘、たいせつ違います。伝承、竜騎士様、門を開けた。そこ、信じます」


 そしてロジウはコー族が直面している危機について、ゆっくりと話し始めた。

 時々、ランスベルが言葉の意味を確認しながら、話は進む。


 ――事の起こりは大地震だった。


 激しい大地の揺れによっていくつかの洞窟が崩壊して死傷者が出て、洞窟が分断された。さらに、凍土に定住しているコー族にとって生命線とも言える温泉が、二箇所を残して枯れてしまったのだ。


 大地震の直後、コー族が〝竜の巣〟と呼ぶ大洞窟に住んでいたドラゴンが南に飛び去るのが目撃され、そのまま戻って来なかった。


 コー族は竜の巣を調べに行った。そこにはこの地で最大の温泉があり、裸で生活できるほど暖かいので、コー族は以前から〝ドラゴンさえいなければ〟と思っていたらしい。行ってみると確かにドラゴンはいなくなっていたが、竜の巣に足を踏み入れた男たちはもがき苦しんで死んでしまったという。


 おそらく火山性のガスが吹き出ていたのだろう、とギブリムは推測した。南に飛び去ったドラゴンというのがフレスミルで遭遇したダーガに違いない。住処がガスに汚染されてしまったため、新たな住処を探して〈世界の果て山脈〉にやって来て、フレスミルに通じる穴を見つけて入り込んだ――そんなところだろう。


(まったく迷惑な話だ)


 ギブリムはそう思ったが、大地震はコー族のせいでもダーガのせいでもないので、不満げに鼻を鳴らすくらいしかできない。


 彼らの問題はそれだけでなく、コー族の住む洞窟に近いところでリザードマンが目撃されているとロジウは話を続けた。


 もちろんアシニッド語ではリザードマンではなく、ケトン――ギブリムにはそう聞こえた――というらしいが、本来は暖かい南方の森や沼地に住む種族なのでアンサーラでさえ驚いたようだった。


 ギブリムも極北の地に生息しているリザードマンがいるというのは初耳だが、説明された外見的特徴などからリザードマンか、その亜種と判断せざるを得ない。


 ロジウは〝小さいケトン〟と〝大きいケトン〟がいて、どちらもドラゴンに仕えていると言った。


 おそらく〝小さいケトン〟はコボルドの事だ。ダーガがコボルドやリザードマンを従えているのは珍しい事ではない。南へ飛び去った〝神〟を追ってコボルドは凍死するのも構わず追いかけたのだろうが、リザードマンはそこまで愚かではないので、この地下に留まったのだろう。


「ケトン、温泉、取る、来る」というロジウの予想はおそらく正しい。リザードマンも新しい住処――すなわち温泉のある空間――を探しているに違いない。


「その……リザードマンを退治してもらいたい、ということ?」


 ランスベルが尋ねると、ロジウは首を左右に振った。


「いいえ。温泉消える、コー族、冷たい、死です。リザ……マン、いる、いない、同じ」


 そこでロジウは言葉を切り、立ち上がって段差を下り、ランスベルの前で膝を付いた。イムサと五人の年長者が「おお」と驚きの声を上げる。珍しいことなのだろう。それから頭を垂れて言う。


「竜騎士様。門を開いた。逆です。コー族、南へ」


 イムサと他のコー族も、慌てて族長に倣い、手を付いて頭を垂れた。


 ギブリムはため息をつきたい気分でちらりとランスベルを見た。案の定、懇願するような目でこちらを見ている。それでついに、周囲にも分かるようなため息をついてから答えた。


「いいや、無理だ」


 ランスベルはその答えを予想していたに違いない。一拍置いて、決意したように口を開く。


「怒らないで聞いて欲しいんだけど、僕らが抜けてきた第一区画はもう放棄すると決まったようなものなんだよね? なら、もう一度だけ通してあげる事はできないかな。僕らが見捨てたら、彼らは本当に死んでしまうかもしれない。ギブリムだって、人間の命をどうでもいいなんて思ってないはずだよ」


 徐々に静まりつつあった怒りの炎が胸の内で再び火勢を強めたが、ギブリムはそれを抑えて静かに話し始めた。


「ランスベル。ドワーフは……ギブリム氏族は、〝あるもの〟を探して地中を掘り進んでいる」


 ギブリムは〝大地の門〟という言葉を伏せた。


「だから、いずれ地表に近い第一区画は放棄されると決まっていた。今は第二区画に移住しているが、すでに第三区画の計画は完成している。だがな、第二区画への移住は計画より一〇〇年早く実行されたのだ。なぜなら、人間を通してしまったからだ。こいつらの祖先だな」


 ランスベルが何か言おうとしたので、ギブリムは手のひらを向けてそれを遮る。


「最初にフレスミルを通った人間たちはドワーフと約束した。決して地下都市の存在を話さない、とな。だが現実は聞いてのとおりだ。こやつらの言う伝承とやらは、おそらく秘密というほどのものではあるまい。いかにお前が竜騎士と名乗ったからと言っても、話すべきではないのだ。ドワーフの求めた〝秘密にする〟とはそういうことだった……だから、ドワーフは人間を信用しない。人間はすぐに忘れてしまう。約束を破るのはいつも人間のほうだ。〝騙された〟と感じているのはドワーフのほうだ」


 ギブリムの言葉を、ランスベルが理解しようとしているのはその表情から分かった。彼はいつもそうする。アンサーラは口出しするつもりはないようで、ただ静かに様子を見ていた。コー族たちは頭を垂れたままだ。


「でも……」と、ランスベルが沈黙を破る。

「それでも、彼らを見捨てるのは間違ってるよ」


 ランスベルらしい、とギブリムは思った。だから、最後まで言わなければならなくなった。


「以前は、人間の領域から外への移動だったが、今度は逆だ。もし、こやつらが秘密を守ったとしても子孫はどうだ。やはり同じように、いつか、誰かが話すだろう。人間たちは大挙して山にやってきてフレスミルの入口を探し、いずれは見つける。その後、人間たちはどうすると思う。ドワーフの技術を盗むだけでなく、地下へ地下へと道が続く限り進んでくるのではないか。第二区画への道は、第一区画の放棄によって閉ざされるが、人間が掘り起こさないとは言えまい。そして第二区画あるいは第三区画でドワーフと人間は出会う。それは俺の生きているうちかもしれないし、少なくとも、バンの世代が生きているうちに起こるだろう。ドワーフは人間を覚えている。だが、人間はドワーフを覚えているのか。ドワーフを邪悪な種族だと決めつけて攻撃してくるのではないか。まさしくコー族の伝承にあるように。そうなれば当然、悲惨な結果になる」


「そうなるとは……限らない」


 それでもランスベルは抵抗した。ギブリムにはもう、最後まで言う覚悟ができている。


「それはお前のほうがよく分かっているはずだぞ、ランスベル。ドラゴンがいなくなった途端、一方的に侵略したのは誰だ。自分の都合で他人の家族を人質にしたり、殺したりしたのは誰だ。家族の情を利用して罠に仕立て上げたのは誰だ。全て人間の仕業だ。他人の物を欲しがって、手に入れるためには手段を選ばないのが人間ではないか」


 その言葉は、ランスベルに家族の死を思い出させてしまったはずだった。


 だが、彼はギブリムが思ったほどの動揺を見せなかった。


 口をぎゅっと結び、関節が白くなるほど拳を握り込む。それだけだった。


 そして瞳に、決意の光が煌めくのをギブリムは見た。


「さっきの話にあった白竜騎士と同じ事を僕もできるはずだ。僕はダーガを退治した。その代価として、ここにいるコー族のフレスミル通過を要求する」

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