8.エリオ ―盟約暦1006年、秋、第4週―

 南からの追い風もあって、航海は順調だった。


 エリオの乗る〈白鯨号〉はその名が示すように、幅広で船底が深いでっぷりした形をしている。積載量に優れているが、重量があるため船足は遅い。帆は南風を受けて張り、大きな船体を軋ませながら北に向かっている。


 エリオは鯨を見たことはないが、〝大きなイルカみたいなものだ〟という船乗りの言葉を信じれば、きっとこの〈白鯨号〉よりも優雅に海を泳いでいるはずだ。


 併走している二隻の護衛船のうち、小さいほうの船が〈白鯨号〉を追い越したり、先に行かせたりしながら周囲を警戒していた。この海域には魔獣が出没するためだ。


 五年前から始まった魔獣狩りの成果で、護衛付きなら〈白鯨号〉のような足の遅い輸送船でも航行できるようなったが、かつては海賊でさえこの海域には近寄らなかった。


 そのためテストリア大陸の南岸にある都市国家群から、北のファランティア王国へ向かうには大きく東に迂回せねばならず、どうせ東に向かうのであれば、〈貿易海〉の中心地テン・アイランズを経由しない理由はないから、ファランティアへの航海は今より二〇日以上も日数がかかっていた。


 エリオは照りつける太陽の光を帽子で遮っていたが、海面が反射する光の眩しさに目を細めて西の方角を眺めた。陸地が海の上にへばりつく黒い影のように見える。予定通りなら、〈魔獣の森〉を越えた辺りだろう。


 マストの上で見張りを命じられることが多いという若い水夫によれば、ここからでも〈魔獣の森〉と、そこから飛び立つハーピーの群れが見えるらしい。エリオは目を凝らしてみたが、そこが森なのかどうかさえはっきりしなかった。子供の頃から目が良いとは言われていたが、遠くを見る事ができるというのは、また別なのだろう。


 眩しさに限界を感じて、甲板に目を戻す。初秋とはいえ海上の日差しは強く、南風は暖かで、甲板上は夏のように暑い。黙々と働く水夫たちには上半身裸の者もいる。露出した肌は小麦色に日焼けしていて、新しい皮膚と古い皮膚とが濃淡を作っていた。まるで、この船の塗装のように。


 見上げるとグイド船長が操舵手の隣で大きな日傘の下、巨大な赤ん坊のようにゆらゆらと椅子に揺られているのが目に入る。日傘の下で座っているだけなのに、滝のように流れる汗が丸々とした肉体を滑り落ちて椅子の下にを作っていた。


「この身体のおかけで海に落ちても溺れる事がない。ぷかぷか浮くからな」と船長が冗談めかして言うと、決まって船員の誰かが「でも海に漂う船長を見つけたとして、水死体と区別が付かない」とか「船長を引き上げるには鯨取りの網が必要だ」などと言って皆で笑う。そんな時は船長もまた、人一倍大きな声で腹を波打たせて笑うのだった。


 グイド船長の陽気な人柄はエリオも大好きだが、その目立つ外見と人柄だけで〝貿易海屈指の船長〟とは呼ばれないはずだ。エリオが船員たちにそれとなく聞いてみると、彼らはグイド船長が経験豊富で、判断力もあり、船長がいる〈白鯨号〉なら何も心配いらないと口々に言うのだった。


 幸か不幸か、ここまでの航海には何ら問題が無かったので、彼の真価をエリオは目にしていない。


 甲板上で作業していない人間はエリオとグイド船長だけで、作業のない者は船内に引っ込んでいる。それは日差しを避けるためでもあるが、シー・ハーピーや、セイレーンなどの魔獣を警戒しているためでもあった。


 シー・ハーピーは海岸沿いの洞窟や岩場に巣を作るハーピーの亜種である。人間の女性に似た胴体と頭部を持ち、肩から先は鷲のような翼、下半身は鉤爪が発達した鳥に似ている。頭部が人間に似ているので、高い知能があると長い間信じられてきたが、実際にはその知能も生態も鳥類とほとんど変わらない。口を開けば耳まで裂け、中からくちばし、つまり本当の口が出てくる。主に海岸沿いを旅する人間や船乗りを集団で襲い、空中に持ち上げてから地面や海面に叩き落し、動けなくなったところを食らう。


 ハーピーは必ず群れで行動し、単独で獲物を襲うことはないので、見晴らしの良い海上なら接近しているのがすぐに分かるはずだ。接近しているのが分かれば、撃退する準備も可能なので恐れる必要はない。護衛船にはクロスボウ部隊もいるし、分銅付きの投網ネットを打ち出す投射機カタパルトなど、空から襲ってくる魔獣に対抗できる装備が積まれている。


 船乗りの間では、シー・ハーピーが海中を泳ぐと信じられていて、海中から突然飛び出して甲板の人間を連れ去るという話もある。事実、シー・ハーピーは短時間であれば海中に潜る事も可能だが、海鳥と同じく獲物を捕らえるためであり、長い距離を泳いで来る事はない。視界の悪い状況で、海中から飛び出してきたシー・ハーピーに遭遇した船乗りが広めた迷信である。


 こうした知識は、アルガン帝国の魔獣狩人からもたらされたものだ。

 魔獣と言っても、生態を研究すれば獣同様に狩れるという認識は、エリオたちテストリア大陸の人々には目から鱗であった。魔獣は普通の生物とは全く異なるもので、分裂して増えたり、何も無いところから湧いたりするような超自然的な存在だと信じられてきたからだ。


 もちろん、魔法的な能力を持つものや、超自然的な能力を持つ魔獣と呼ぶに相応しい化け物もいる。だがそうしたものはごく一部に過ぎず、たいていは生態を観察し、対策できれば、特殊な能力や技能がなくても退治できるのだ。


 エリオにとって不思議なのは、そうした知識があるにも関わらず、今でもエルシア大陸では魔獣の呪いが信じられている事だ。その証拠に、護衛船には魔獣の呪いや穢れを浄化するミリアナ教の祓魔師エクソシストも乗船している。


 操舵手の隣でゆらゆら揺られているグイド船長は魔獣をあまり恐れていない様子だ。


 もし、シー・ハーピーが襲ってきたら――と、エリオは想像してみた。

 シー・ハーピーがグイド船長に襲い掛かり、足で掴んで持ち上げようとするが、いくら必死に羽ばたいても巨大なグイド船長を持ち上げることができず、やがて諦めて去っていく。


(確かに、ハービーなど恐れるに足らず、だな)

 エリオは口元に手をやって笑みを隠した。


 航海はその後も順調で、〈白鯨号〉は北西に進路を修正しつつ貿易海を進み、翌日の朝には目的地であるファランティア王国最大の港町ホワイトハーバーが見えるところまで来た。認可を得ている自由貿易船だと示すための旗と、青と白の三角旗を上げる。


 〈白鯨号〉はテン・アイランズからの貿易船を装っているので、帝国軍の護衛船を引き連れているわけにはいかないから、二隻の護衛船は夜明け前に離脱している。


 グイド船長が大きな声で手早く指示を出し、船員たちは彼の手足のように動いた。エリオはその的確な指示と一糸乱れぬ動きに、この船の真価を垣間見た気がした。

 やがて〈白鯨号〉は滑り込むように穏やかな湾内へと入っていく。


 同じ港町でも、ホワイトハーバーはエリオの生まれ育ったテッサとはあまり似ていなかった。テッサはごつごつした岩場と崖の斜面にあって、港は岩場に足場を組んで作られたものだ。


 対してホワイトハーバーは穏やかな湾の中にあり、白い砂浜が町まで続いている。砂浜に作られた桟橋には喫水の浅い小型船がいくつか停泊していて、開放的な桟橋や砂浜の近くにも建物があった。白い砂浜を上っていくと茶色の地面へと変わり、その先に町の中心街がある。大きな建物も数軒あるようだ。


 海側にテッサのような防壁もなく、見晴らしはとても良い。テッサと似ているところを敢えて探すとしたら、建物の白い壁くらいだ。


 グイド船長の指示から推測するに、湾の南側は沖まで砂地が続いているらしい。柔らかい砂に乗り上げないよう注意を促している。穏やかな海だが、〈白鯨号〉のような大型で喫水の深い船には危険な場所のようだ。


 ホワイトハーバーの町から目を戻すと、いつの間にか三人乗りの小さなボートが〈白鯨号〉を先導していた。掲げる旗には、ホワイトハーバーの商人ギルド章と、オーダム家の紋章が描かれている。湾に〈白鯨号〉が姿を見せるのを待っていたのだろう。


 誘導に従ってホワイトハーバーの町を通り過ぎ、〈白鯨号〉が入港したのは一番北寄りの、町外れにある大型船用の桟橋だった。


 エリオは甲板で、船の係留作業が終わるのを待っていた。町のほうを見ていると、一台の馬車がこちらに向かってくる。掲げた紋章はオーダム家のものだ。背後に立った男の気配に、振り向かないままエリオは話しかけた。


「アレックスは俺と一緒に来い。〝荷物〟の保管場所を聞いて、確認してから移動だ」


「了解してます」

 背後に立つ男――アレックスはそう答えた。


「グイド船長との契約期間は、一応あと二日あるが、〝荷物〟は速やかに移動させなければならない」


「抜かりなく、やりますよ」


 アレックスの軽い口調に、エリオの警戒心がわずかに反応する。

「余計な一言だと思うが、失敗は許されない」

 振り向いてアレックスの目を見て言うと、彼はエリオの視線を受け止めて答えた。


「わかってます」


 短く刈り込んだ赤毛にはちらほらと白髪が目立つ。しかし一番目立つのは、顔にある大きな二つの傷だ。


 一つは額に横一直線に走る傷。剣か斧のような鋭い刃物で付けられたに違いない。もう一歩分深く入っていたら致命傷になっただろう傷だ。もう一つは、顔の左側を縦にざっくりと走る傷で、その途中にある左目が無傷なのは奇跡としか言いようがない。


 四〇歳とは思えないほど筋骨逞しく、肩幅は広くて手足が長い。戦いに向いた身体つきをしている。だからこそ、傭兵としてこの年齢まで生き延びてこられたのだろう。


「〝森の小屋〟との連絡は怠るなよ。動くときは連携することになるから――」


 そこまで言って、エリオは言葉を切った。グイド船長が巨体を揺らせてよちよちと近寄ってくるのに気付いたからだ。アレックスは〝了解してます〟と目で合図を返した。それを横目に、エリオはアレックスからグイドに向き直って呼びかける。


「船長。快適な船旅でした」


 エリオは軽く頭を下げた。グイドは明るい表情で応じる。


「そりゃあ、良かった。お前さんは塩の女神に愛されてるのかもしれねぇな。こんなに順調なのはわしも久しぶりだぜ」


 巨体を揺すって豪快に笑い、両手を広げる。すえたピクルスのような臭いを我慢して、エリオはグイドと抱擁を交わした。


「塩の女神に愛されているとしたら、きっと私より船長のほうでしょう」と、エリオは笑顔で言った。塩の女神というのはテン・アイランズや東方で信仰されている海の神である。


「ん、まあ、わしが甲板にいるだけで足元から塩が湧いてくるくれぇだからな」


 わっはっは、と豪快に笑う。実際、船長の定位置の床には汗のが白く乾燥している。


「また何かあったら声をかけてくれ。城勤めに飽きた時もな。わしの〈白鯨号〉でトーニオとやらを探しに行けばいい」


 エリオは自然と笑顔になって頷いた。太り過ぎた醜悪な外見と酷い体臭にも関わらず、グイドには不思議な魅力がある。


 船長と話している間にも係留作業は終わり、船と桟橋の間に板が渡された。桟橋の入口には、オーダム家の馬車も到着している。


「商談相手が待っているようです。それではグイド船長、良き航海を」


「ああ、あんたも。仕事が上手くいくと良いな」


 〈白鯨号〉を降りたエリオとアレックスは、桟橋を歩いて馬車に向かった。二人の姿を認めた御者の男が御者席から下りて馬車の扉を開けると、一人の中年男が出てくる。背が低く、肩幅の狭い痩せた男で、不釣合いな大きさの帽子を被っている。その帽子の丸いつばを指先でつまみ、軽く頭を下げてきた。


 エリオがオーダム家の者と直接会うのは初めてだが、その年恰好から前当主のホルスト・オーダムで間違いないだろう。


 オーダム家は、ホワイトハーバーの商人ギルドを立ち上げた四大商家の一つである。商人ギルドの中に階級のようなものはないから、所属する商人は対等な立場という事になっている。しかし実際のところ、四大商家はギルドの中でも別格だ。というのも、ホワイトハーバーの領主は代々、四大商家からの〝贈り物〟で暮らしているのだ。しかし四大商家以外の商人たちは、四大商家のいずれかを通して間接的にしか〝贈り物〟ができない。このルールを破ると商人ギルドから追放され、ホワイトハーバーで商売できなくなる。


 四大商家は、それぞれ他の家を出し抜こうと領主に金や物を貢いできた。より多額の〝贈り物〟をした家の意見が重用され、便宜も図られるのはいわずもがな。

 これを領主が四大商家を利用していると見るか、または四大商家に領主が支配されていると見るかは、それぞれの立場による所だろう。


 これまでホワイトハーバーの中で四大商家の勢力は、大きく崩れることなく拮抗してきた。現在も、表面上はそう見える。だがエリオは、オーダム家がただの張りぼてだと知っている。


「はじめまして。主人の使いで参りました、エリオと申します」

 エリオが手を差し出す。


「こ、これはご丁寧に。わ、私はホルスト・オーダムと申します」

 ホルストは帽子を取ろうとせず、その手を取って握手を交わした。


 二人の身長差は頭一つ分以上あるので、ホルストは帽子のつばの下からエリオを見上げるような形になっている。その目を見て、エリオはすぐに嫌悪感を覚えた。それは彼の最初の養父とよく似ていたからだ。


 オーダム家が張りぼてになってしまった経緯はエリオも聞いている。

 オーダム家の主な商いは、貿易海の反対側、東方国家との繊維貿易であった。そしてホルストが当主を継いで数年後、オーダム家に不運が起こる。大きな内戦が始まって東方国家が分裂してしまったのだ。それにより、オーダム家は商品の輸入先の大部分を失ってしまった。


 この事態にホルストが講じた対策は、ただ待つ事だけだった。オーダム家には代々受け継がれてきた蓄えが相当あったはずだから、内戦が終わり、また取引が再開されるのを待てばよい、と考えたのかもしれない。


 しかし、新しい金の流れを作らなければ、どんどん金が出て行くだけ――というのは商人であれば誰でも知っている事であろう。


 仮に、ホルストの〝耐える作戦〟を成功させようとするなら、せめて領主への資金提供を減らし出費を抑えるべきだった。結果的に四大商家の地位から転落するかもしれないが、家を存続させる事はできたかもしれない。しかしホルストはそうする事もできなかった。


 代わりに彼は、差し出されたロランドの手を掴んだ。それが何を意味するのか、知ってか知らでか。


 馬車はホルストとエリオ、アレックスを乗せて走り出した。


「な、長旅でお疲れでしょう。今日はこのまま当家でお休みください。準備もさせており――」


「お心遣い痛み入ります。が、このまま〝倉庫〟に向かってください。ご存知でしょうが、荷物は〝なまもの〟なんでね」


 ホルストの言葉をエリオは途中で遮った。アレックスの視線を感じて、エリオは自分の言い方が思ったよりきつくなってしまったと気付いた。


「申し訳ない。とても重要なことなのです。この計画が失敗したら主人に殺されてしまいます」

 少し同情を誘うようにエリオは付け加えたが、これは比喩でも何でもない。


「そ、そうですよね」

 ほっとしたようにホルストは言って、御者に向かって命じる。

「おい、〝倉庫〟に向かえ。のろのろするなよ」


 御者は命令に従って、馬車の進行方向を変えた。エリオは作り笑顔で嫌悪感を誤魔化しながらホルストに話しかける。


「そう言えば、ホルスト殿は当主の座をご子息に譲られたのですよね。てっきり現当主が来られるのかと思いました。あ、他意はありませんよ」


「は、はい、ええ……あいつは……その、ちょっと具合が悪くて。代わりに私めが参った次第で……」


 現当主は、ホルストの長男ガスアド・オーダムである。しかし、オーダム家とのやり取りの中でガスアドが出てこない事は、エリオたちの間でも疑問視されていた。今後の展開を考えると、ガスアドの人物を見ておいたほうが良いように思える。


「そうですか……少しの時間でもお会いすることはできませんか?」


「え、ええ……たぶん、そうですね。聞いてみます」


 これ以上続けてもこんな返事しか出てこないだろう――と、エリオは話題を変えた。


「次男のランスベル殿とは、きっと王都で会えるのでしょうね」


「ランスベルは、竜騎士とか言われていますが、本物じゃないですよ。あいつが選ばれた時からブラウスクニース様はずっと臥せっておられたから、飛んだ事もないはずです。たぶん最後を看取ってくれる人間に、ランスベルみたいな毒にも薬にもならんようなやつを選んだのでしょう」


 ホルストの反応はエリオにとって意外で、自分の息子が竜騎士である、などという名誉を自慢しないとは思わなかった。それで思わず擁護するような事を言ってしまった。


「まあ、馬に乗らなくても騎士は騎士ですけどね。竜騎士も同じじゃないですか」


 この話題もホルストはあまり気乗りしないようで、少し険のある言い方で応じる。


「いつも部屋で本を読んでいるようなやつで、覇気がないのです、あいつは。ガスアドは子供の頃からガキ大将って感じで、皆を引っ張って行ける。リーダー気質っていうんですか。頼りになるのはガスアドのほうですよ」


 そんな話をしていると、御者が「そろそろ到着します」と知らせてきた。


 窓を開けて前方を見ると、大きな穀物倉庫や、畜舎を持つ農場が見える。誰も住んでいないのは明らかで、荒れてはいるが朽ちてはいない。町からも遠くないし、指定どおりの良い場所である。


「ちょっと中と……周囲を見させてください」


 到着後、エリオはそう言ってアレックスと二人で馬車から降りた。


 農場の周囲を二人で歩き、確認したが、問題なさそうだった。


「場合によっては長期間ここに潜むことになるが、大丈夫かな?」

 エリオが問うと、アレックスは答えた。

「問題ありませんが、何か娯楽は必要かもしれませんね」


「そうだな……あまり動きがないようなら、少人数で順番に旅の商人を装って陸側から町に入ればいい。ホルストが協力するだろう」


「なるほどね」と、アレックスは頷いた。


「俺は明日にも王都に向かう。アレックスはこのまま船に戻って移動の準備を」


 そう言って馬車に戻ろうとすると、アレックスが突然言った。

「さっきのは、らしくありませんでしたね」


 アレックスは無口というほどでもないが、自分から意見を述べた事はなかったので、エリオは少し驚いた。


「さっき……ああ、ホルストと会ったときか。自分でも驚いたよ。あいつの目、あんまり養父に似てたもんで」


「馬車の中でも、です。気をつけてくださいよ。あの手の野郎は、ああいう些細なことを根に持って、考え無しに裏切ったりするもんです」


「その通りだな。気をつけるよ」と、エリオは素直に言った。アレックスの忠告は的を得ていたし、傭兵に意見されたからといって気にするような自尊心も持ち合わせていない。


 そして二人は馬車に戻ると、町の入口まで向かい、そこで別れた。

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