2のコイ:コタエなんてそんなカンタンにダしちゃいけないと、そうオモった。

 風が吹いた。

 俺は…答えを出そうか迷った。

 しかし、其処で心が呟いてきた。


『もう二度とこんな機会は訪れない』と。


 俺は、その時…頷いていた。


「いいの?」


 木伏が心配そうに訊いてきた。

 俺は、頷く。


「本当に?」

「ああ」


 俺は彼女を見つめながらそう言った。

 すると彼女は…。


「有り難う」


 涙ぐみながら笑っていた。

 俺は恥ずかしくなる。


「その…木伏?」


 そして首を傾げる木伏に、俺は言った。


「付き合うことになったこと、皆には秘密な」


 その後俺は後ろに駆け出した。


「ちょっと! 待って!!」


 そんな声、気にならなかった。

 それ程恥ずかしかったのである。

 どうすればいいか…分からなかったのである。

 そして俺はドアに手をのばし、開けた。


「もう…」


 俺が去ると木伏はそっと、溜息をついた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 俺は中二の頃、後輩にコクハクされたことがある。

 その時も確か学校の屋上に呼び出されて…こう言われた。


「好きです、先輩。付き合ってくれませんか?」


 耳を疑った。

 だけど…彼女は本気だった。

 俺は次に理由を訊いた。

 すると、こう答えた。


「先輩の優しいところが好きなんですよ」


 その時…俺は嬉しかった。

 それをしっかり憶えている。

 そしてそれと共に…いやそれ以上に、この言葉も。


「…あの。別れましょう?」


 そうだ。

 そうなのだ。

 彼女は俺の「優しいところ」だけが好きだったのだ。

 その事を…知った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ハッと気付く。

 俺は授業中に、居眠りをしていたようだ。

 気がつけば周りの奴らは皆俺を見ていた。


 やべえ。


 思わず立ち上がる。


「おい佐久川、座って答えなさい!」


 状況を整理する。

 現在俺は数学の授業中、寝ていたらしい。

 そして今指名を受けた。

 恐らく受けた内容は問題の解答だろう。

 だったら…!

 俺は黒板を見る。

 黒板には見覚えのある問題があった。

 この時、初めて全教科の教科書内容を丸暗記して良かったと思えた!

 そう、俺は趣味として教科書を昔読んでいたのだ!!


「問い13の答えは…」


 その時俺は、答えを口にしようとした。…が。


「問い13??」


 待てよこの反応。

 即座に俺は理解した。

 問題の答えを訊かれているんじゃない。

 だったらなんなんだ…?

 俺は悩む。



 コタエなんてそんなカンタンに出しちゃいけない。



 不意に幻聴が聞こえてきた。



 ワラえてくるよ。


 ナゾだね


 ザンネンだったね


 コンカイはネていたでトオしておきな



 どんどん言葉が俺の目の中を行き交う。

 そして本能が言っている。この言葉に逆らっちゃいけないと。

 この言葉を信じろと!


「…すみません、寝てました」


 クラスのほとんどの陽キャ共が笑い始めた。


「仕方ないな。それじゃあ、川井。頼む」


 俺は目を瞑って鉛筆を取った。

 川井という女がこの質問で答えるべきだったことを言う。

 答えるべきだったのは問い13ではなく、黒板に書かれていない問い14だったのであった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 放課後帰ろうとすると木伏が目で合図を送ってきた。

 ぶっちゃけ何だか分からない。直視出来ずにいるからかもしれないし、彼女の合図が分かりづらいからかもしれないが。

 だが、予想はつく。

 一緒に帰ろうや放課後会おうってとこだろう。


 結局、一緒に帰ることとなった。

 俺は彼女を見てなぜか安心したのだが彼女は心配顔でこう言ってきた。


「秘密…ってどういうこと? 何で悟られないようにしなきゃいけないの?」


 そうか、お前はそういう系か。

 俺は溜息をつきながら下駄箱の扉を開いた。


「そのな? 俺は全くこれに関しては初めてで…」


 …その瞬間、俺は驚いた。

 恐らくそれを見ていた木伏も驚いたであろう。

 それは桃色の便箋の…明らかなラブレターであった。

 恐らく扉に寄りかかっていたのであろうその手紙が俺の下駄箱の中から飛び出してきたのだ。

 そう、俺はまたコクハクされたのである。



 コタエなんてそんなカンタンにダしちゃいけない



 なぜか数学の授業に聞こえた幻聴が俺の耳の中に響かせた。

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偽りのコイゴコロ 花見和ノ如く @aokingyorin

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