07話 クエストの受注

 あーあ、結局依頼者来なかったなー。

 ヤマダはあれから2時間ずっと同じ場所で待っていた。だが、人1人来ることはなかった。

 やはり、報酬を用意していないのがまずかったらしい。


 バンっ!


 健斗がいるギルド館の扉が勢いよく開けられた。そして2人の兵士が入ってきた。

 兜を被っていて表情は見えないが、なにやら焦っている様子だ。


 なんだ? なんだ?

 何か起こったのか?


 呑気な健斗をよそに、2人の兵士は足早に依頼掲示板へと向かう。

 そして―

 彼らは依頼掲示板に貼られている依頼を次々と取り除いていく。健斗の依頼も取り除かれ、掲示板に依頼が一枚も無くなった。


 おいおいおい。あの2人はなにをしているんだ?

 僕の依頼も取り除かれたじゃないか。これじゃ、依頼を受けてくれる人が見つからなくなるよ。

 まぁ、あっても来ないと思うけど…。


 貼られていた依頼を全て取り除くと、2人の兵士は一際大きい一枚の紙を掲示板に貼り付けた。

 そして、それと同時に町中のスピーカーらしきものから放送が聞こえた。


『緊急クエスト。緊急クエスト。只今ギルド館にて緊急クエストが発生しました。繰り返します――』


 緊急クエスト?なにやらイベントらしいものが起こったらしいな。


 放送が終わると多くの人がギルド館に押し寄せ、掲示板のとこへ向かった。

 気になったので、健斗も掲示板のところへ行き、先程貼られた一枚の大きな依頼書を見た。



 《緊急クエスト》

 依頼内容:アルズ国の防衛


 達成条件:サレイヤ国からの襲撃を防ぎ、この国を守ること。


 参加条件:人数・年齢は問わない。職業ジョブを持っているものなら誰でも参加可能。


 成功報酬:成功したもの一人につき、5000万ベルを与える。




 5000万⁉︎

 大金じゃないか! 一文無しの僕には絶好のチャンスだ!

 このクエストは受けないわけがない!


「おいおい、5000万だとよ!」

「あぁ、そんだけあれば遊びまくれるぞ!」

「これだけの金があれば借金も…。」


 様々な声が聞こえる。多くの人がこの多額な報酬に興奮しているようだ。

 だが、反対に…


「5000万って、怪しすぎやしないか?」

「相手はサレイヤ国じゃないか!勝てっこないよ…。」

「俺、このクエスト受けるのやめようかな。」


 と、このように『サレイヤ国』という国名と、『5000万』という巨額な報酬に一歩引くものたちもいた。


「やはり、サレイヤ国は攻めてくるか。」


 僕の隣で掲示板を見ていた1人の男がそう呟いた。


「すみません、一つ聞いていいですか?」

 僕は彼に質問した。

「ん?ガキが俺に用か?」

 ガキじゃねー!

「サレイヤ国が襲撃してくるって知っていたのですか?」

「まぁな。狼牙の森の状況を考えると分かることだ。」

「狼牙の森の状況…?」

「先日、何者かが狼牙のボスである雷鳴狼牙と戦ったらしいんだ。その戦いで大量の魔力を消費した雷鳴は、回復を図るため姿を消したそうだ。」

 え、まって。

 それって僕じゃない?

 そいつと戦って負けたんだけども。

「しかし、あの雷鳴狼牙に魔力の回復をさせるまで戦えるとは…。信じられんがな。」

「その雷鳴狼牙ってそんなに強いのですか?」

「はぁ?ガキ、知らねーのか⁉︎雷鳴狼牙はレベル8の魔物だぞ!」

 いや、レベルとか分からないんですけど…。

「すみません…。」

「まぁ、いいや、とにかく相当強い魔物だってことだ。」

 あ、教えてくれないのね…。

「それとサレイヤ国となんの関係が?」

「ガキだから分からないか。サレイヤ国とこのアルズ国の間に狼牙の森はあるんだ。分かるだろ?狼牙の森の、雷鳴狼牙を筆頭とした狼牙たちがいるため、サレイヤ国は簡単にアルズ国へ侵入できないんだ。だが…。」

「その雷鳴狼牙が今は姿を消している。」

「そういうことだ。サレイヤ国にとってこれはチャンスなんだよ。」

「そうだったんですか…。教えてくれてありがとうございます!」

「おう!気にするな!」

 僕は彼にそう言うと足早にギルド館を出た。


 よし、このクエスト受けよう。

 いや、受けなければならないな。

 サレイヤ国が攻めてくるの…僕のせいじゃん!

 僕が雷鳴狼牙と戦ったせいだ…。

 これは僕が責任を取らないといけない。


 なぞの使命感と責任感でクエストを受注することを決意した。






 クエストを受注した健斗は、依頼書に書いてあった場所へと向かった。どうやら集合場所のようである。

 まだどこになにがあるのか分からないため、健斗は国の住民に聞きながらその場所へと向かう。


「うお、これはすごいな。」


 目の前には大きな建物があった。まるで城のようである。あまりの迫力に一瞬声が出なかった。


「ここに集まればいいんだな。」


 僕はその建物の中に入り、その中にいた案内人みたいな人に誘導され、大広間へと案内された。


 大広間へ着くと、すでに多くの人がいた。

 100人弱はいるだろう。その中にはさっき色々と教えてくれた男も見える。

 なぜか親近感が湧いたので話しかけることにした。

 1人でいても悲しいからな…。


「あなたもこのクエストを受けたんですね。」

「おぉ、さっきのガキか!って、お前このクエスト受けたのか⁉︎」

「え?あ、はい。」

「悪いことは言わねぇ、やめておけ。死んでしまうぞ。」

「いや、大丈夫だと思いますが…。」

「ここはガキの来るところじゃないぞ!まだギルドにも加入できない年だろう?」

「でも、職業ジョブをもってるので…。」

「スキルもまともにもっていなさそうだがな。ジョブはなんだ?」

「僕はけん―」


『みなさん、お集まりいただきありがとうございます。』

 健斗の声を遮り、どこからか声が聞こえた。

 ギィと大広間の扉が開く。

 そこから1人の男が出てきた。

 金髪で背が高い男は豪華な服装をしている。


「私はマルコ=サニール。この依頼主です。どうかみなさんの力を貸して欲しい。」


 マルコはそう言うと、頭を僕らに下げた。

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この世界で僕は変わらないといけないらしい。 かぐや @kaguya0504

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