第15話 礼儀正しいカリスマ美容師は、ハサミを使わない…
私はシャワーを浴びていた…
今日は、早朝から近所のゲーセンの卓球コーナーで娘のパンマンの練習相手を一時間程した。
そして、汗だくになったので家でシャワーを浴びたのである。
私は、さっぱりしてから、自転車を漕いである場所に向かった。
曇り空の下、約5分で私は辿り着いた…
店の看板には、
「くろしお美容室」と書いてあった…
私が店の前に着くと30代の割と小柄で細っそりとした店主と思われる女性が入口を開けて、深々とお辞儀をしながら言った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
いきなりの丁寧な挨拶に私は少々戸惑ったが、同じようにお辞儀をしてから私は言った。
「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。」
この店主は、この地域ではかなり有名なカリスマ美容師であった…
そのカリスマ美容師が私のバッグを見て言った。
「帽子、お預かり致します。」
私は、驚いた…
何故このカリスマは、私のバッグの中に帽子が入っている事が分かったのであろう⁇
私は、バッグを開け、中に入っている宇宙人の帽子を1つ取ってカリスマに渡した…
すると帽子を受け取ったカリスマは、なんの躊躇もせず被った…カリスマには、その帽子がやけに似合っていた…
その後、カリスマは席に案内してくれて私は席に着いた…
カリスマは、鏡に映る自分の顔を見ながら、少し考えてから言った。
「申し訳ございません。やっぱり、シャンプーを先にさせて頂けますか?」
私は、シャンプー席に案内され、席に着くと椅子を倒され、仰向けに寝かされた…
「上から失礼します。」と言ってカリスマは目の上に目隠しのタオルを置いた…
そして、
「失礼します。シャンプー入ります。」と言ってカリスマはシャンプーを始めた。
店には、ただシャワーの音だけが響いた。
シャカシャカ…シャーシャー…
やがて、シャワーは止まり、私の頭にタオルが巻かれ、席が起こされ…そして、カリスマの手が私の首に伸びて…「失礼します。」とカリスマが言いながら、首を締めた…
少しびっくりしたが、私は無くなりかけた意識の中で、何とも言えない心地良さを感じていた…
どうやら、これがカリスマ流マッサージらしい…
その後、私はカット席に案内され、カリスマは「後ろから失礼します。」と言ってから、ドライヤーで髪を乾かし始めた…店内には、ただドライヤーの音だけが響く…
ブウォーンブウォーン…ブウォーンブウォーン…
ドライヤーが終わるとカリスマは、言った。
「これからカットを始めさせて頂きます。後ろから失礼します。」
店内には、ハサミの音だけが響いた。
チョキチョキ…チョキチョキチョキ…チョキ…
心地いい音である…
私は、何気なく鏡に映ったカットをするカリスマの指先を見た…
カリスマは、音だけではなく本当にチョキをしていた…カリスマは、ハサミを使わずに自分の指をチョキにして、指でカットをしていた…
私は、思わずカリスマに聞いた。
「あ、あの…ハサミは使わないんですか?」
「使いませんよ!いつもこれですよ。」
「指でなんでカット出来るんですか?」
「爪を研いで切れるようにしてるんです。」
私は、少しびっくりしたが、カリスマのプロ意識の高さに感動した…さすがカリスマである。人と同じ事をしていては、1番にはなれない…
カリスマは、その後も素晴らしいテクニックでカット、セットと完璧な仕事をして全てが終了した。
最後に会計をした…
「ありがとうございます。3024円になります。」
とカリスマはニッコリ笑顔で言った。
私は、先に30円を出した…カリスマは無表情であった。
そして、私が財布から千円札を3枚出すとカリスマは溢れんばかりの笑顔になった…
どうやら、カリスマは札が凄く好きみたいである…
カリスマは、深々とお辞儀をしながら言った。
「ありがとうございました。」
礼儀正しい挨拶がとても心地よかった…
私も同じようにお辞儀を深々としながら言った。
「ありがとうございました。」
カリスマは、千円札が凄く嬉しかったみたいで、美容室を出た私にもう一度深々とお辞儀をしながら、千円札を見せびらかした…
美容室を出ると生暖かい風が、私の頬を撫でた…
そして、新たな風に吹かれて… 権田 Q三郎 @0we38c19214606m
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