第14話 生温かい生ビールも悪くない…

 私は、南に向かって歩いていた…


 空は、厚い雲覆われていたので、日差しはそれほどでも無かったが、蒸し暑かった。

 私は、ハンカチで顔の汗を拭いながら、歩いた。

 やがて、前方に駅が見えて来た。

 私は、階段を上り駅に入ったが入り口には、今日も梅川ちゃんが立っていた…


 駅の改札を入って電光掲示板を見た。私が乗る電車が来るまで、後5分ほどだった。


 やがて、電車がホームに入って来て私は電車に乗り込んだ…

 車内は、空いていた…私は入口付近の座席に座った。


 電車に乗って約2分後に電車は、次の駅に到着した。

 私は、電車から降りて、階段を上り改札に向かった。

 改札を出た所にある男が立っていた…

 その男の名は、「大原君」


 私達は、駅の前で記念写真を撮ってから、南に歩き始めた…

 相変わらず蒸し暑かった…

 そして、風も吹いていなかった。


 駅を出て約5分後に私達は、ある店に着いた。店の看板に店名が書いてあった。

「さん天」

 そこは、天ぷらのチェーン店である。


 私達が店に入ると入口に食券の自動販売機が二台設置されていた。私達は、それぞれ券売機で食券を買うことにした。

 私が券売機を操作していると隣の大原君が聞いて来た。

「何にするんですか?」

「俺は、グランドスラム天ぷら盛合せにするけど…」

「じゃ、僕もそれにします。」


 私達は、それぞれグランドスラム天ぷら盛合せと生ビールの食券を買った。


 店内は、カウンター席とその奥にテーブル席が5つあった…

 開店直後だったので、私達が一番の客であった。


 20代前半のスリムな感じの女性店員が出て来て言った。

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」

 私達は、迷わず一番奥のテーブル席に座った…そして、20代前半のスリム店員に食券を渡した。私は、持っていた無料券も一緒に渡した。

 スリム店員は、食券を読み上げてから私に言った。

「こちらの無料券は、何にしましょうか?」

 私は、すかさず「鶏天!」と答えた。


 少しして、スリム店員が生ビールを2杯持って来た…よく冷えたジョッキに一番搾り生ビールが注がれており、旨そうであった。


 私達は、「乾杯!」と言ってから、生ビールを喉に流し込んだ…「旨い!」と私達は思わず叫んでいた。


 数分後、スリム店員が私達の前にグランドスラム天ぷら盛合せを並べてから言った。

「ごゆっくり、お召し上がり下さい。」

 だが、スリム店員に笑顔は無かった…


 私は、テーブルに置いてあった小皿を2枚取って、1枚を大原君に渡した。

 すると、大原君は私に聞いてきた。

「このお皿は、どうするんですか?」

 私は、テーブルに置いてある塩の容器を取り、塩を小皿に入れながら、言った。

「天ぷらは、天つゆだけじゃなく塩でも食べるやろ!」

 大原君は、納得して同じように塩を小皿に入れた。


 私は、天ぷらを1つ箸で摘み、塩をつけてから口に運んだ…

 私は、それが何の天ぷらか分からなかったが、一口食べてすぐに分かった…チーズである…私は、チーズの天ぷらを食べたことが無かったので、少しびっくりしたが、その旨さに感動した。

「う、うまい…」


 次に茄子の天ぷらを天つゆにつけてから一口食べた。そして、すかさず一番搾りを流し込む…「旨い…旨過ぎる!」

 私は、思わず叫んだ!


 気付くと私達の生ビールが殆ど無くなりかけていた。

 私は、すぐにスリム店員を呼んで、

「生ビール2杯」

 と言って千円札を渡した。


 少ししてスリム店員が生ビール1杯とお釣りを私に持って来て言った。

「もう1杯は、少しお待ち下さい。」


 そして、スリム店員は戻ってビールサーバーの所で何か四苦八苦していた…

 それから、50代の少しぽっちゃりのおばちゃん店員を呼んで来た…

 おばちゃん店員は、すぐに言った。

「これ樽が空なのよ…」

 おばちゃん店員は、スリム店員に指導しながら、生樽を交換した。

 まもなく、スリム店員が生ビールを1杯持って私達の所に引きつった顔でやって来て言った。

「大変遅くなり申し訳ございませんでした…」

 私達は、一部始終を見ていたので

「大丈夫だよ。」と声をかけた。


 私達は、気を取り直して再び乾杯した!


 そして、引き続き天ぷらとビールを楽しんだ…


 だが、気付くとまたビールが無くなりかけていた。


 私達は、またスリム店員を呼んだ…

 スリム店員がやって来ると今度は、大原君が

「生ビール2杯」

 と言って千円札を渡した。


 大原君は、私に言った。

「今度は、生ビールすぐ来ますよね?」

「生樽変えたばっかりだし、大丈夫だろう⁉︎」と私も安心していた…


 だが、スリム店員はなかなか現れなかった…

 私達のすぐ近くにあるビールサーバーの所にも…


 数分後、やっとスリム店員が私達の所にやって来た。

 生ビールを持たないで…

 手に持っているのは、釣り銭だけだった…


 そして、スリム店員は釣り銭を渡しながら言った。

「大変申し訳ございません。ただ今、ジョッキが無くて、先程のジョッキを洗浄して、冷蔵庫で冷やしていますので、もう少しお待ち頂けませんでしょうか?」

 私は言った。

「えっ、ジョッキ無いの?だったら、別にジョッキ冷やさなくていいから、ビール注いで来て!」

 すると、スリム店員は泣きそうな顔で言った。

「あの…ジョッキ…あっつ熱なんですけど…」

 私は、察した…この店では、熱湯消毒していることを…

 私は言った。

「じゃ、仕方ない…待つわ…」


 スリム店員が戻って行くと私は、店内を見渡し…大原君に言った。

「俺たち以外、生ビールを飲んでいる奴居なかったよな⁉︎ということは、この店にはジョッキが四つしか無いということか…」

 大原君も

「そういうことになりますよね…」

 私達は、かなりビックリした…


 やがて、スリム店員が生ビール2杯を持ってやって来た…

 だが、そのジョッキは少し温かかった…ビールが入っているのに…


 私達は、温かいビールで3度目の乾杯をした…

 そして、改めて思った。

 生ビールは、冷たい方が旨いということを…


 私達は、生温かい生ビールを飲み干すと席を立った…

 店を出る私達の後ろからスリム店員の声がした。

「申し訳ありませんでした。ありがとうございました。」

 その声で私達は、満足であった…


 店を出ると、雲の隙間から夏の日差しが私達に照りつけて来た。

 そして、少し強めの風も吹いていた。

 その生温かい風がやけに気持ちよかった…

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