[load.preiades(114106:114106)] Che l'amore che mi dara il tempo.

EP5:AL2O3 泣き出す君に祝福を

# キセキは、どこから

 確率を選ぶ。それは無数に絡まりあった糸を選ぶに等しい。


 起こりうる事象に対し、可否を判じて糸を引く。その先で再び糸が絡めば、不要な糸を切り落とす。無限にも続く選択の連鎖は、これまでのアランにとっては退屈な作業でしかなかった。


 だが、今回は違う。


 時計台の最上階に、分厚いステンドグラスを通して秋の陽射しが注ぐ。指先で紅玉ルビーもてあそびながら、アランは薄く笑んだ。ラナと繋がったパスから心地よいぬくもりが感じられる。やわい温度は、彼女の肌を思わせた。


 結ばれた契約は不完全なれど、ラナと自分をつなぐ縁は確かにある。今までは意識しなければ見つけられないほど希薄だった儚き糸は、今や夜闇を彩る星のように清冽せいれつに美しく輝くのだった。


 縁の活性化は、ラナが自覚して魔術を使ったからに違いなかった。人の願いは、容易く悪魔のそれを凌駕りょうがする。


 時間が巻き戻る直前に向けられた黒灰色の目を、アランはしみじみと思い出す。怒りと悲しみと、それを上回る決意を込めた眼差しは苛烈な炎そのもので、彼の目を奪うに十分だった。だからこそ、選択すべき確率の幾つかに取りこぼしが生じた。


 アランは全身を歓喜で震わせる。

 ラトラナジュ。宝石の名を抱く愛しい人。今の君なら、なんと答えるだろう。


「――キセキは、どこから生まれると思う?」


 戯れのように呟いて、アランは紅の宝石に恭しく口づける。

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