第6話 BAD END

 また一夜明ける。どうやらあの男は生き残ったらしい。しかし、私の落とし子はまだ活動している。損傷も大きくはない。

 ならばあの男自体はやはり、一般人とそう変わらないのかもしれない。

 いや。万が一という事もある。あの男が懲りずにまた調べに来るのならば、その時こそ命を奪ってやろう。それまでに次の候補地を探しておかなければ。

 ここでの活動も二か月になる。世間と関りを持たず、大きな家を持つ人間を狙って拠点を得たとはいえ、多方面へ無接触となるとそろそろ限界だ。

 なんとか親類を装って外来に応対してきたが……一部を捧げてしまったからな。疑いを持つ者が増え始めた。

 今日の一件を最後に、また活動の拠点を移すとしよう。

 

 ……。


 夜。あの男は懲りずにまたここへやってきたようだ。今回は落とし子だけでなく、私も近くまで出向いた。どうやら今回は松明の様な物を持ち出してきたようだ。洞察力が無い訳ではないらしい。或いは、知っていたのか。

 まともにぶつかるのでは、落とし子に勝ち目はないか。

 私は音を立てず、ゆっくりと近づいていく。

 そう。急ぐ必要はない。

 あわよくば落とし子がアレを殺し、糧とするのが望ましいが……。

「は、はは……」

 どうやら上手くはいかなかったらしい。男は狂乱するように松明を振り回し落とし子を倒してしまった。舌打ちを一つ、私は男の背後へと歩み寄り、呪文を一つ詠唱する。瞬間、地面のアスファルトが泡立つ様に変異し、直後に鋭い槍となって男の腹部を貫いた。

「……?」

 男は突然の事に現状を把握するのに手いっぱいの様だ。

 間抜けに自分の腹を眺め、手に着いた何かを思案し、そのまま前へ倒れ込んだ。彼の腹部に刺さったコンクリートが重さに耐え切れずにパキン、と折れる。

 ふむ。一方向への硬度は十分だが、流石に側面となると脆いか。

「しかし余計な事をしてくれた。君が下手に嗅ぎ回ってくれたおかげで、周囲の目が一段と厳しくなったようだ。おまけに、大した能力も持たない癖に貴重な落とし子を消されてしまうとは。これにどれほどの手間がかかったと思っている?ああ、全く憂鬱だが……また召喚しなければな」

 話しかけようとも、男はもう動かなかった。

 溜息を一つ、私はその場を離れる。なんにせよ、この街にはもう居られない。

 誰の目もない、新たな狩り場へ向かうとしよう。

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闇に嘯くもの かんばあすと @kuraza

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