明日の事を話そう

明日世界が終わるとして

明日、世界が終わるらしい。


世界が終わると聞いても実感がわかないのが現状だ。歩く街並みはいつもと変わらず、いつもと様子が違うのはテレビの中だけ。まるでドラマのワンシーンのように切り取られた映像だけが世界が終わることを認識しているかのようだった。世界滅亡が発表されたのは1ヶ月ほど前の事。発表の日は馬鹿みたいに盛り上がったりしたものだった。最後の日は何がしたいかとか、最後に食べたいものは何か、とか。でもすぐその話題は沈静化した。だって、実感がわかないのだ。誰も世界が終わることなんて体験したことがないのだから。それでも少しずつ私の周りは変化していく。仲の良かったあの子が会社を辞めた。理由を聞くと最後くらいゆっくり両親と暮らしたいからだそうだ。それを皮切りにぽつぽつと会社から人が減っていった。その反面会社に残り続ける人もいた。会社に残り続ける人は私と同じで世界滅亡に対して実感がわかないといっていた。でもその日が刻一刻と近づくにつれてどんどん人が減っていった。近くにあったお気に入りの喫茶店は世界滅亡の1週間前に閉店してしまった。近所のスーパーも開店しなくなってしまった。電車ももう動かない。それでも私は、もしかしたら明日世界が終わらないでいつも通りの日常が続くのではないかと思ってしまっている。いつもと変わらず出社した会社ももう人がいない…と思っていたのに、私以外にも世界が終わる実感のない馬鹿がいたらしい。

「もう、俺とお前以外来なくなったな」

もしかしたら、彼が私と変わらずこの非日常を日常のように過ごしているから私はいつも通り過ごせているのかもしれない。

「そうだね。」

「なんでお前はずっと休まず会社に来てるんだ?」

ずっと休まず来ている理由なんて、特になかった私は返答に困った。

「───まだ、世界が終わらないで毎日が続くような気がしてるから。」

彼は会話を続けるのに困っているようだった。世界が終わるなんて質の悪いドッキリで本当はまだ何も終わらず進んでいくと、私は信じてい疑っていなかったのだ。だって、それを実感させてくれるような出来事が、それを実感するに値する出来事が私にはなかったから。

「あなたはなんで休まず会社に来ているの?」

二人の間の沈黙を破るようそっと彼に質問を投げかける

「えっと、それは…」

彼は少しだけ言いづらそうにして、それから意を決したように話し出した。

「お前のことが、好きだから。たとえ明日世界が終ろうともここに来ればお前に会えると思ったから。」

そう私に向かってはっきりといった彼は、もうすぐ死ぬはずの世界でとても輝いてみえた。

「きっと明日世界は終わらないよ。お前がそういうなら俺もそう思う。だからさ」

心臓が跳ねる。こんなの、日常なんて嘘だ。これこそが非日常だ。私は昨日テレビで見た地球滅亡の特集を何かの映画のワンシーンのようだと眺める自分を思い出していた。今この瞬間こそが!ドラマのワンシーンみたいじゃないか!!!

「だからさ。────明日、デートしよう。」

そういった彼の顔はひどく赤らんでいた。

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明日の事を話そう @akira-yuhi

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