第三話『暗黒騎士ミロ』8

 もう少し戦力差を考えて欲しいところだが、また殴られたくないので黙っておく。


「それよりもあんた、さっきの戦い方は何よ!? 門を作ったり、門から門にワープしたり……滅茶苦茶じゃない!」

「何って言われても、今の俺の職業は門番だからな」

「………………は?」


 ミロはしばらくの間、呆気に取られていたが、


「な、なんで門番なんかになってんのよ!? いや待って……その前に、なんで門番があんなに凄いスキルを持ってるのよ!?」

「……暗黒騎士の状態で凄むなよ。怖いから」

「余計なお世話よ!」


 ズドンッ! 今度は読んで完全にガードした。だけど手が折れそうなほど痛い……。


「でもあんた、暗黒騎士のあたしを倒したじゃない!? 知っていると思うけど、暗黒騎士は六大英雄職の一角なのよ!?」

「俺も知らなかったよ。門番が暗黒騎士を倒せるような職業だなんて」

「そんなわけないでしょうが!? 門番は紛れもなく雑魚職業よ!」


 ミロが黒いオーラをまき散らしていてとても怖い……。


「大体、門番に転職した状態でどうして暗黒騎士のあたしと真正面から剣の打ち合いが出来るのよ!? おかしいでしょう!」

「そんなこと言われても、俺は天職スキルとかいうやつの一つ、『八門遁甲開門スキル』を使っただけなのだが……」

「門番がそんなとんでもない隠しスキルを覚えるわけないでしょ!? 八門遁甲と言ったら、武道家の奥義スキルじゃないの!?」

「『門』という文字が付いているから普通に門番のスキルだと思ってた」

「……あ、あんたは昔から適当過ぎるのよ……」


 ミロは疲れたように盛大なため息を吐いた。暗黒騎士がため息を吐く姿はシュール過ぎる……。

 しかしそこで俺は本職を放り出しっぱなしであることに気付いた。


「あ、悪いミロ。俺、そろそろ戻らないと」

「え? なんでよ?」

「だって俺、門番の仕事があるから」

「………………は?」


 ミロは何やらまた呆気に取られていた。


「……もう一度言ってごらん? 暗黒騎士を倒した奴が、何の仕事をしてるって?」

「だから門番の仕事だよ」

「なんで人類最強とまで謳われるほどの男が門番の仕事なんかしてるのよ!?」

「門番が門番の仕事をするのは当たり前だろう? 何言ってるんだお前?」

「あたしの方がおかしいみたいに言わないでよ! あんたの方が大分おかしいこと言ってるんだからね!?」


 そんなこと言われても……。


「とにかく俺、戻るから」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」


 暗黒騎士に回り込まれた。逃げられない。


「約束は約束よ。勝負にあんたが勝ったらあたしのことを好きにしてもいいっていう約束だったわよね? だから……好きにしなさい」


 ミロが覚悟を決めたように言ってきたが、暗黒騎士が手を後ろに回して顔を逸らしても何もそそられないのでやめてほしい……。


「別にいいよ、面倒くさい」

「面倒くさい!? このあたしの覚悟を、面倒くさい!?」


 暗黒騎士が地団太を踏んで地面が陥没する。怖い……。


「分かったわ。だったら、あんたがあたしのことを好きにするまでは絶対に側を離れないからね!?」


 ……何そのドМ宣言?





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 ラーマの北門に戻ると、先程閉めたはずの門が開いており、そこでパティが待っていた。


「リューイ君……無事で良かった……」


 どうやら相当心配してくれていたらしく、パティは心底ほっとした様子だった。


「と、ところでリューイ君……そちらの方はどなたですか……?」


 パティが恐る恐る指を差したのは、言わずもがな暗黒騎士である。

 しかしミロがダークテリトリーの闇皇帝であることを打ち明けることはマズイだろう。

 だから俺はこう答える。


「この子は『闇ちゃん』だ」

「とてもではありませんが『ちゃん』付け出来る風貌ではないですよ!?」


 さすがに無理があったか……。

 俺がどう説明したものか悩んでいると、当の本人であるミロが一歩前に踏み出し、ズシャッと重い音が鳴り響く。


「よろしく頼む」

「ひいいいい!? わ、分かりました! だから殺さないで下さい!」


 闇皇帝の放つオーラの前に、パティは完全に屈服した。





 **************************************





 次に門番長のレイラの元を訪れたのだが、


「……ボウヤ。随分と変わったお友達を持っているんだねえ」


 さすがのレイラも暗黒騎士を前にして唖然とした様子だった。


「それにしてもあんた、ミロ様以外に友達がいたんだね」

「いや……こいつがミロなんだが」

「え!? これがミロ様!?」


 レイラは死ぬほど驚いていたという。


「ふははははっ! 久しぶりだな、レイラよ」



 ……ねえミロ。その闇皇帝のノリ、やめない? おかげでレイラが固まったまま動かなくなっちゃったじゃないか……。

 しばらく空気が死んでいたけど、その後、ミロが暗黒騎士の兜を脱いだことで、ようやく感動の対面になった。

 レイラが涙を流すのを見ないふりして、俺はその場を後にした。


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神スキルの門番【ゲートキーパー】 元英雄職「魔法剣士」が志す、悠々自適な「門番」ライフ 著:春日山せいじ イラスト:ふーみ/ファミ通文庫 @famitsu

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