再会
ルルがその部屋に入った時、真っ先にあの男の姿を見つけていた。
奇妙な紋様が壁や床に描かれたこの部屋は、元の伯爵の部屋と隣り合う複数の部屋を繋げてあるので、かなりの広さになっている。あれから急に改築したのだろう。内装の方は元の部屋の雰囲気がそのまま残ってしまっている。
そして、その部屋の中央とさらに奥に、合せて三人の男が立っていた。
どの顔も、ルルはすでに知っている。だが、その中でも部屋の中央に陣取ったその男の姿をルルは見る。
「よう、嬢ちゃん。三年ぶりくらいだよな? ほんの少し、背が伸びたか? 大きくなったな。元気そうで何よりだ」
とても親しげに語りかけてくる傭兵風のその男は、以前と同じように飄々とした顔つきで話しかけていた。
「やっぱり…………。ここにいるってことは、そういう事だったのかな?」
絞り出すように答えるルル。それは半ば予想していた結果だったが、現実にその目にすると受け入れられないものがあるのだろう。
だが、傭兵風の男は、そんなルルの様子を一瞥した後、視線を宙に向けて話していた。
「さあな。この俺にとっては、どっちだっていいことだ。嬢ちゃんもそうだろう? 見知らぬ男が、誰を助けようが、殺そうが、知らなければその目的さえ気にならない。でも、たまたま知ってしまったから気にするだけだ。ただ言えることは、『どう考えて行動しているか』なんて、他人にわかるはずないんだぜ。いや、ひょっとすると自分でもわかっていないかもしれない。ただ、わかることは『どう行動したか』って事だけが、自分にも他人にも明らかなんだ。そして、俺は嬢ちゃんの望む『復讐をする力を手に入れる』手伝いをした。それ以上でも、それ以下でもない」
最期には肩をすくめて笑いかける傭兵風の男。そんな姿に、ルルも口元をほころばせる。
「確かに、それには感謝しているよ。いつか会えればいいなと思ってもいたかな。でも、正直に言えば、ここでは会いたくなかったかも」
「俺もそう思うぜ。まあ、人生なんてそんなものだ。嬢ちゃんが考えているほど、世の中は簡単にはできていない。他人の善意が、本人にとって悪意なんてことはざらにある」
「それは思い知ったかも。しかも、あたしが望む、望まないにかかわらず、あたしの知らない所でみんな好き勝手にしていて、勝手にあたしを巻き込んでくる」
二人の間に、ふとした空気が流れ込む。そこだけに、穏やかな時間が過ぎていくように。
「それが力ってもんだ。その力が大きくなればなるほど、自然と他人に影響する。巻き込まれたくなければ、自分で周りを巻き込むんだな。ここにいる偉そうなおっさんがそうだろう。自分の正義を貫くのに、より大きな力を得るために動いた。何の力もなかった嬢ちゃんが、聖剣パンタナ・ティーグナートの力を欲したように」
そこでため息をつく傭兵風の男。その瞳は、どこか懐かしさをもってルルを見つめる。
「旅の時にも話したが、嬢ちゃんは聖剣の力を得たことで、すでに大きな力の流れに乗っている。何も知らず、何の力もなく辺境で暮らすことも、嬢ちゃんには可能だった。嬢ちゃんの父親はそれを望んでいた気もするがな……。でも、嬢ちゃんは復讐の為に力を欲した。その結果が、より大きな力に飲み込まれた。その事に手を貸した俺が言うのもなんだが、ただそれだけの事だぜ」
背中の大剣を抜き、肩でそれを支えて構える傭兵風の男。油断のなく見つめるその瞳は、すでにルルを標的にしている。
「でもよ、これだけ聖剣の所持者を集めても、嬢ちゃんはここまで来れた。ちゃんと俺が言った事を理解したようだな。そうやって、人に頼ることを忘れなかったのは偉かったぜ。だが、欲を言えば、復讐そのものを誰かに託す方法を取って欲しかったけどよ。まっ、それは嬢ちゃんにとって、俺のわがままだって思うだろうけどな」
自分の言った言葉を小さく鼻で吹き飛ばす傭兵風の男。その男の顔を、ルルは懐かしそうに眺めていた。
「あの時は何を言っているのか、わからなかった。けど、今ならわかるかな。ただ、あたしは傍観者じゃいられなかったんだよ。自分で何とかしたかったんだよ。それに、あたしは最初から人に頼ってばかりかな。一人じゃ何もできないのはよく知っているけど、あたしは子供で、何も知らないんだよ。だから、まず聞きたいかな。戦う必要がある事は分かっているから、その前に!」
それでもルルは、その後ろにいる二人の男に話しかける。宰相ブラウニー・トリスティエと、その息子であるエルマール・トリスティエに。
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