アスティ対聖剣バルコイニクスの所有者
左右二本の斬撃が、その間合いを無視してアスティの目の前に迫ってくる。衝撃波として飛ばしたそれは、その軌道上にある屋敷の床をも破壊して進んできた。
「そんな師匠は知りませんし、知っていても年寄りには興味ありません」
そう言いつつ、その攻撃を易々とかわしたアスティ。そのまま一気に間合いを詰め、聖剣バルコイニクスの所有者に
直線的な攻撃で、アスティを止めようとしても無駄だろう。
だが、聖剣バルコイニクスの所有者も只者ではない。二本の双剣で易々とはじき返した後、右手に持つ黒い双剣をアスティに向けて投げつける。
不用意な攻撃ともいえるそれは、易々とアスティに躱される。
しかも、その隙をアスティは見逃さない。聖剣バルコイニクスの所有者の右脇腹に向けて、
だが、その攻撃は不発となる。
隙をついたと思ったアスティの攻撃。その伸びきった姿勢が作ったアスティの無防備な背中。そこに黒い双剣が迫っていた。
間一髪のところで、アスティはそれを回避する。攻撃を中断したアスティは、そのまま転がり距離を取る。
アスティが避けた黒い双剣。奴の右手の動きと連動したそれは、ありえない角度で引き返してきていた。寸前に回避したアスティ。だが、転がるように回避したアスティは、無理やり自らの体に制動をかける。
そこにある何かを避けるために。
「くっ、不可視の糸使い……」
「ご明察。どうだ? わが師の編み出した攻防一体のこの陣。ここに足を踏み入れたが最後だ」
珍しい事に、軽い驚きがその顔に出ていた。不可視の糸とは言っても、単純に『見えない』というだけではないだろう。刃先まで変えられる仕組みがそこにある。
しかも、自らネタばらしをしてくれて助かるが、このエントランス中に不可視の糸が張り巡らされていた。
「どうだ? これでは先に進めないだろう? さっき帰ってきた司祭は通してやったが、お前たちに道は無い。ただ『見えないだけ』ではないのだ。それは刃の糸だ。不用意に触れると、どうなるかわかるよな?」
御大層に自らの力をひけらかす聖剣バルコイニクスの所有者。その実力は中々のものだが、それは殺し合うものがするものではないだろう。
これは試合じゃない。命のやり取りがそこにある。
「そもそも道なんてものは、用意されて歩むモノではない。それがわからないから、お前の師匠は殺されたのだ。私ではない誰かに!」
腰につるしている鞄の一つから、多数の油壺を周囲に投げつけるアスティ。しかもその後火種をかなりばらまいていた。
いや、どう考えてもお前だろう、アスティ。一瞬で不可視の糸を見破り、その対策を取って戦っているのだから。
アスティの目論見通り、不可視の糸に割られた油壺は、周囲に油をまき散らす。そこに火種がばらまかれて、一気に炎が上がっていた。
ただ、それはほんの一瞬の出来事。油が燃えた後は、不可視の糸はそのままの形で残っている。
「油をまいても、切れ味は落ちない。火で焼き消そうとしても勢いが足りない。そもそも単なる糸ではないのだ。焼き切れるものではないのだがね」
双剣を投げつける聖剣バルコイニクスの所有者。それをかわして叩き落すアスティ。防戦一方になっているように見えるものの、それはただその為のものだった。
「今です、ルル!」
「うん。アスティもあとで」
「ええ、この男には、少し聞きたいことがありますので」
ただそれだけの会話で、ルルは糸の隙間を突き進んでいく。身をかがめて床すれすれを這うように。
「なっ!? どうやって!?」
「そんな事も分からないのですね。自分たちの力を過信しすぎるからこうなるのです。この陣は攻撃の為にある硬質の縦糸とそれを刃物にするために弾性のある横糸を織り交ぜて作られているモノですね。そして、エルマールを先に行かせたということは、道が用意されているという事です。思った通り、下の方は糸の張り方が雑ですね。そして、炎は上に上がる。縦糸を探すのは簡単な事です」
おそらく、聖剣バルコイニクスの力はこんなものじゃないだろう。だが、今はルルと宰相を会わせることが目的としてアスティは動いている。
ルルもそれをよくわかっている。
互いにもう一度頷くと、ルルはその先に走っていく。
「では、そろそろ本気できたらどうだ? 聖剣バルコイニクスの所有者よ」
「なるほど。わが師を殺したものにはわが師の技でと思っていたが、さすがにそれだけでは難しいか」
アスティの徴発を受け、斬撃で自ら張り巡らせた不可視の糸を切り落とす聖剣バルコイニクスの所有者。
それが終わった後に振り返り、アスティに再び双剣を向けていた。
「さあ、ここから聖剣の本当の力を見せてやろう。死の舞を!」
黒い刃と白い刃。
二本の双剣を天地に構え、自らの体を回転させながらアスティに攻撃を仕掛けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます