出迎えた聖騎士と出迎えた者達
ルル達が森を抜けたその直後、旧ラッシュカルト伯爵の屋敷の方から土煙が迫ってきた。まだ日没には時間があるものの、今にも雨が降りそうな空模様で、あたりは徐々に薄暗くなっている。
「ルル、来ましたよ」
「なんだか、この光景はちょっと見覚えがあるよね」
ルルのそれは既視感というものだろう。馬に乗っているのと乗っていないという差があるにせよ、先頭にいる司祭服とその後ろの聖騎士団。兵士がいないが、これはあの時と同じ状況だと言えるだろう。
いや、人数はあの時よりも少ない。だが、相手は全て聖騎士。状況的には、今回の方が物々しい。
「エルマールも、結構偉い人だったんだね。あんなのだけど」
「所詮は、猿山の猿です。ウチの見た目ゴリラには勝てないでしょうね」
「ウホ!」
アスティのひどい言葉をうけても、リラが拳を自分の目の前で打ち鳴らす。久々の戦いの予感に、興奮を隠せないという感じだった。
「でも、リラのニセ発情期が心配だよね」
「そうですね、でもリラはバカですから、そろそろ忘れている頃です。ひょっとして、自分が雄であることも忘れているのかもしれませんが……」
「ウホゥ!?」
――やれやれ、お前も大変だな。
「ウホホ……」
そんな軽口をたたいている間に、土煙はどんどん近づいてくる。やがてアスティがリラをからかわなくなった頃、エルマールがその姿を見せていた。
馬を降り、ゆっくりと近づくエルマール。
「お久しぶりです。もう、私がここに来る事はご存知ですよね。ですので、もう隠しておく必要もありませんね。私の本当の名はエルマール・トリスティエ。聖タリア教聖剣管理局所属、聖剣パンタナ・ティーグナート担当司祭長をしております。短い間ですが、お見知りおきを」
エルマールの紹介が済んだのを見計らったように、教会所属の聖騎士たちが前に出る。その数実に、五十人。物々しい出で立ちと共に、全員殺気を漲らせている。
ここで一気にかたを付けに来たわけか。
「そうやって、いつも自分は高みの見物ですわけですね。前から嫌いでしたが、今では同じ場所にいる事も耐えられません。という訳で、今すぐにでも死んでください」
「いえ、これでも色々とやらなければならない事がありますので、アスティさんの方こそ、御退場ください。十分長生きしたでしょう? ここはタリア神さまのおひざ元。魔王国の者が好き勝手していいところではありません」
「あいにく、私はそんな神を知りません。自分の行きたい所に行きますし、やりたいことをするだけです。神に束縛されているあなたとは違うのですよ」
エルマールとアスティの言いあいは、向かってくる聖騎士達を挟んで繰り広げられる。エルマールの周囲に十人の護衛が待機し、四十人の聖騎士たちがルル達に向かって突き進む。
だが、聖騎士達の剣がアスティに届くより先に、白い巨大な拳がそこに襲い掛かる。
それは圧縮された空気が破裂したようなものだろう。運悪くそこにいた三人が、その犠牲となって吹き飛んでいく。
「囲め! ゴリラは間合いの外から串刺しにしろ!」
「
聖騎士団が陣形を整えリラを攻撃しようとした瞬間、あたりに煙が充満し、視界が一瞬にして白くなる。
「まずは、目くらましという訳ですね。ですが、その事は聞いてますよ!」
それは風の魔法が発動する魔道具なのだろう。ルルの煙玉の煙を、瞬く間に吹き飛ばしていく。晴れる煙とエルマールの晴れやかな顔。だが、エルマールのそれは晴れた煙のようにはいなかった。
その場にルルとアスティの姿は無く、代わりにリラと二人の男がその姿を見せている。
「なっ!? あなた達は一体何者です!」
エルマールの驚きは、聖騎士全体の驚きだった。だが、その驚きをいっさい意に介さず、わずかに残る煙の中からその男たちが進み出る。
「特に名乗る必要がありませんが、老いぼれ執事とでもお呼びください」
「それが嫌でしたら、ゴリラと愉快なしつじい達とでもお呼びください」
リラを中央にして左右で圧倒的な存在感を見せつける老執事達。ほとんど顔も同じ双子の老紳士。だが、その性格は微妙に違っているようだった。
ただ、実力は並外れたものがある。
それを感じているのだろう。その不気味なまでの殺気を受けて、聖騎士達は一様に身動きできなくなっていた。
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