屋敷の中の強者たち
出迎えに来た老執事に案内され、屋敷の前に来たルル。そこにはアスティの姿と共に、老執事に似たもう一人の老執事が共にいた。
「ルル、ちょっと妙なことに――」
「さっ、お話は後ほどゆっくりと」
「まずは、主人と会って頂きます」
アスティの言葉と行動を遮る老執事たち。双子のようなその顔立ちと息の合ったその行動はまるで一人が二役しているようにも感じられる。ただ、その雰囲気にのまれたのだろう。さすがのアスティも文句を言えず、ルルの顔を見つめていた。
それにしても、この老執事たちの存在が解せない。
屋敷の敷地内で戦っていたにもかかわらず、そこには何も触れてこない。しかも、この執事達は只者ではない。戦いが終わった直後に現れるまで、ルルに気配を一切感じさせずにいたのだから。
おそらくアスティと共にいた方もそうだったのだろう。見ていないからわからないが、あの様子だとそう考えるのが妥当と言える。
双子のような老紳士たち。彼らは背後を襲う事が出来たのに、そうしなかった。そう考えるからこそ、現在の状況が知りたい。おそらくルル達はそう考えていることだろう。
だから今、二人共黙って従っている。
二人の老執事に案内され、屋敷の中に入るルル達。そこは調度品が一切ない、ただの殺風景な屋敷だった。エントランスから伸びる階段を昇り、二階に上がる老執事たち。だが、この屋敷の情景に驚いている暇はない。
足音のしない歩きと隙のない後ろ姿。それがルル達に余計に意識させていた。
二人が相当な腕の持ち主だという事を――。
だが、どうしても理解できないことがある。俺が屋敷の外から感じた気配は、確かに一つの大きな気配だけだった。
目の前の老執事たちを見た時からそうだったが、何故という疑問が俺の中に芽生えている。だが、その扉を執事たちが開けたことで、俺は全てを理解した。
そこは、おそらくいくつかの部屋をぶち抜いて作ったものだろう。壁にはその後が残っており、それを隠そうともしていなかった。ただ、そうでもしなければ置けなかった物がそこにある。
中央には左右合わせて二十人ばかり座れるテーブル。
案内された下座の扉から入ったルル達。だから、否が応でも最初にその存在を目にすることになっていた。表情はたぶん変わっていない。でも、明らかにアスティからは嫌悪感がにじみ出ている。
そのテーブル端で、縛られた姿で置かれている全裸の男を見て――。
ただ、ルル達の視線はそこに留まらない。視線はその先にある上座の存在に向いている。そこにいる、微笑みを浮かべている長い金色の髪の美少女。そのすぐ後ろには二人の少女が控えており、金髪の美少女の両隣には、ローブを着た老人と見覚えのある少女がおとなしく座っていた。
だが、この部屋にいるのはそれだけではない。
何より、そのテーブルの左右には統一されたメイドが彫像のように並んでおり、入った扉の両端には、二人の中年執事が控えている。
この部屋の中にいるのが、感じた全ての人数で間違いない。こうして一か所に集まっているだけに、その力の大きさで恐らく一人一人の力がかすんでしまったのだろう。
あの一人の老人の為に。
ただ、こうして見るとこの部屋にいる人間は全員只者ではない。その裸で縛られている者を含めてだが、その中でもその二人の存在は異質だった。
一人は金髪の美少女の左に座っている少女。あれは、ラッシュカルト伯爵の娘に違いない。彼女はこの中で一際その存在が特異となる。
あまりに力が無さすぎて――。だが、その憎悪の瞳はリラに向けられ続けている。だが、その意味がよくわかっていないリラは、奇妙な顔でそれを受ける。おそらくそれが火に油を注いだのだろう。二人のかみ合わない視線の交換は、上座の美少女をますます笑顔にさせていた。
そして、もう一人。
金髪の美少女の右に座っている老人。この老人が、俺の目を狂わせた張本人で間違いない。
すなわち、この老人の魔力の流れが膨大すぎて、他の人間がかすんでしまったのは間違いない。それほどこの老人の存在が、この中でも異質な光を放っている。
そう、こうして一人一人をじっくり見れば、その力が外にいた者達と比べて大きいことがよくわかる。それは、壁際にずらっと控えているメイド達一人一人を取ってみてもそうだった。だが、どうしてもその老人に眼が行ってしまう。引き寄せる力が、並大抵のものではなかった。
ただ、それも強制的に終わりにされる。金髪の美少女の声により――。
「初めまして、剣聖の姫、ルル・ナオナイ様。いえ、もう剣聖の姫という言葉は必要ないのですわね? ようこそ、ルル姫様。あら、やっぱりこの方がお似合いですわね。それに、お噂は色々お聞きしておりますわ。でも、私もお兄さまと同じで自分の目で判断する性分です。ちょうどいい機会でしたので、姫様を試させて頂きました。でも、本当にお強い。ふふっ、姫様なのにおかしいですね。ただ、すでにその血脈にはなんの力もないと思っていましたが、案外ルル姫様の方に宿ったのかもしれませんね。私、あの人嫌いですから。これは、『ざまあみろ』ですわ。まあ、いずれにしても、ハートの十五の時は本気ではなかったということがはっきりしました。これでは聖剣の力が無くても、この国の力ではどうしようもありませんね。でも、その力だけは知っておきたいですわね。ここにいるハートの七と八ではどうかしら?」
おそらく、俺達がその状況を理解するまで待っていたのだろう。それまで黙っていた金髪の美少女の言葉と共に、その背後に立つ少女たちがわかりやすい殺気を放ち始めていた。
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