襲撃のルル
アスティの襲撃が屋敷全体に広まった時、ならず者たちの行動は素早く、洗練された動きを見せていた。まるでどこかの兵士だったかのように、それまで居眠りしていたもの達さえも、すぐに戦闘準備を始めている。
しかも、誰がどう指示したわけでもなく、それぞれ決められたように散らばって行動している。
約十名からなる二小隊が屋敷の裏手に回り、残る十五名の三小隊は正面に集まっていた。しかもそこに放置されていた障害物を積み上げて、素早く簡易の防塁まで築き上げていく。それが終わると、ただちに武器を取って備えていた。
築き上げた防塁の所には、重装備の者六名が待機し、それを囲うように弓を手にしたものが半包囲する形で待ち構える。どのように動いたとしても射線が重ならないように、あらかじめ組み上げられていた六つの高段――それは等間隔を維持している――の上で、いつでも狙えるように待ち構えていた。その下には、目立たないように、三名の魔術師たちが控えている。
完全に襲撃者を予測していたかのように、敷き詰められた包囲網。
ならず者達――すでに、そう呼ぶにはふさわしくない行動をとっているが――が真っ暗な道に目を向けている中、ルルは闇の中からゆっくりとその姿を見せていた。遅れてリラが、のっそりとその姿を見せる。その肩にしっかりと少年を担いだ姿のまま。
一気に高まる緊張感。弓を引き絞る音が、ルルの所にまで聞こえるような静寂。
だが、それを味わっている暇はなかった。
まあ、問答無用というやつだろう。だが、この距離でルルを相手にするそれは、もっとも拙い動きだと言える。
素早く間合いを詰める傍ら、短剣をその喉元めがけて投げつけるルル。闇に溶け込むように作られている漆黒の刃が、篝火の照らす世界に一筋の無明を描きだす。
黒く塗られているその短刀は、篝火の明かりを反射することなく魔術師たちの喉へと滑り込む。しかも、その瞬間。自らの姿を隠すかのように、ルルは煙玉を投げつけていた。
苦悶の声が小さく響き、倒れる人の気配が煙の中で続いている。しかも、煙が充満する中で、すかさず篝火が蹴倒されていく。
次々と消えていく明るさ。
屋敷の方はまだ明るいが、庭の入口はもう暗闇になっている。それと同時に、どこかで誰かの悲鳴が聞こえる。視界がどんどん悪くなり、その場は一気に恐慌状態に陥っていた。
声だけが響く闇の中、駆け抜ける風が煙を纏う。そこはすでに、彼らが想定した戦いの場では無くなったことだろう。
リラを警戒して障害物を築き上げ、そこに重装備の者を配置する。そして、それを半包囲する配置を取っていた支援攻撃の者達。それは力押しするリラにとっては有効な手段だっただろう。でも、ルルにとっては単なる障害物でしかない。しかも、なまじ間隔をあけて高段にいた分、支援攻撃をする者達は格好の的になっていた。
次々と殺されていく仲間たちの声を聞きながらも、重装備の者達は動けずにいる。
リラを警戒するあまり――。
だが、今回リラはそこに立っているだけにすぎない。最初から最後まで動こうとしていなかった。その肩に少年をのせているリラは、ルルにそう言われて待機し続けている。
しかし、男達はその事情を知る由もない。ただ、見えないがそこにいるという事実が、重装備の六人をそこに釘付けにしていた。
その間に、遠距離攻撃をする者達がルルに近接戦を強いられる。しかも、ルルが煙の中で素早く移動しているのに対して、彼らは高段にいるから無防備にその姿をさらしている。
もし、彼らが冷静に判断できていたら――。
ルルの動きに合わせて動く煙に気付いたかもしれない。それを見ればある程度の予測はできただろう。
もしも、連携して攻撃することが出来ていたら――。
少しでも、ルルの足を鈍らせることもできたかもしれない。
だが、現実はそうではなかった。彼らがそこにいる事がわかっているから、ルルは離れていても攻撃していく。短剣を投げながら、確実にその数を減らしていく。だが、それもすぐに終わる。まだ煙が晴れない中で、それらを全て討ち取ったルル。油断なく、ゆっくりとそこに移動していた。
次の標的である、重装備の男たちを倒すために。
重装備の男達が装備していたのは、
だが、今は全員それを手に持っている。しかも
対してルルの装備は小剣と短剣のみ。しかも、
単純に考えると、分の悪い戦いだった。
ただ、悲鳴が全くしなくなった煙の中で、視界の悪い重装備の男たちは迫りくる暗殺者の影を感じていたのだろう。両端の者達がリラに背を向けるようにしてルルに備える。だが、それよりも早くルルは動いていた。
突如煙の中から小柄な少女が突き出てくる。しかも、それは男たちの並ぶ真ん中に。
男たちにとって、意表をついたその攻撃。
リラを警戒していた中央の男達は、当然ルルには気が付かない。だが、もしも警戒していたとしても、ルルの動きにはついてくることはできなかった事だろう。
男達もそれは分かっている。全身鎧を身につけている者が、機敏な動きが出来るわけがない。だが、それでもその時まで、男たちには悲壮感はなかった。
全身鎧は小剣が主装備のルルにとってはかなり相性が悪いと言える。彼らもそれは分かっている事だろう。
だから多少早くても何とかなる。鎧の頑丈さからくる、致命傷を受けない安心感。そんな気持ちが、男たちにその備えを忘れさせていた。
だが、そんな油断をルルが突く。急に視界が悪くなったため、そこを広げていた男たちの無意識の行動がもたらすその隙間。
どんな頑丈な鎧を着こんでも、たった一か所だけ必ず無防備なる場所をめがけて――。
背後から中央にいた男たちの一人に飛びついたルル。間髪入れず、一気にそこに突き刺していた。
そこから
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