森の中のならず者たち
その後すぐにアスティが帰ってきて、エルマールは驚くほどあっさりと引き上げていた。形的にはリラが追い出したのかもしれないが、戸外に出されたエルマールは、再び中に入ってくることは無かった。
アスティはそこにエルマールがいたことは分かっている。だが、そこにはあえて触れることは無かった。
ただ、それからもその話題には一切触れず、アスティは街で調査し続ける。そのかいもあったのだろう。素早くある男に目を付けて数日尾行するアスティ。
しかし、その男が仲間と接触することは無かった。しかたなく、アスティはその男を別のどこかに拉致監禁する。その結果、ルルは迅速に連中の住処を知ることが出来ていた。
おそらく、強制的に吐かせたのだろう。その男が、その後どうなったかは知る由もない。ただそうやって仕入れたことを聞いたルルは、急いで出発することを宣言していた。
それから二日。ルル達がたどり着いた森の中に、目当てとした場所があった。
すり鉢状になった森の中に突如現れたその空間。そこは丁度森の真ん中に位置している。その建物が何を目的としてこんな場所に建てられたのかはわからない。でも、貴族か金持ちがその広い庭を楽しむために、この場所に立てられたのかもしれなかった。そう思う程、建物自体はそれほど大きくはなく、庭が非常に広かった。しかもその広い庭は、かつては色とりどりの草花で彩られていたと思われる。
ただ、それも今は見る影は無い。すでに元の持ち主がいなくなって久しいのだろう。かつての姿が想像できるだけに、今の荒れ果てた姿がより一層無残に思える。しかも、その代わりにそこに居つく者達の我が物顔が、無性に俺の感情を刺激していた。
もっとも、それは完全に八つ当たりなのだけども……。
ただ、そこにいる者達がルルの標的になっていることに変わりない。だから、そう思ってもあながち間違いではないだろう。
コイツらさえいなければ、ルルはこれほど強く思い出す事もなかったかもしれない。悪い奴を倒す正義の味方。自分の復讐をそんな行為でごまかせていたのだから……。
だが、それを今言っても仕方がない。とりあえず、こいつらにはこれまで働いた悪事の報いを受けてもらうとしよう。
しかし、そこにいる数は決して少なくはなかった。ならず者の集団だと思っていたので、せいぜいその数は二、三十人ほどと思っていた。だが、この庭にいる者だけ数えてみても、その数はおよそ三十人。統一した装備を持たず、五人程度の小集団をつくって広い庭に散らばっている。屋敷の中にはさらに二十人程度の男がいる。その中に一人、ただならぬ魔力を備えている者がいた。
用心棒か何かなのだろうか? 場違いな桁違いの力が、その場所から感じられた。
ルル達にとってもかなり強敵になるだろう。ひょっとすると、負けてしまうかもしれない。ただ、それはそれでいいような気もする。自分の力の無さを思い知って、また修行に専念しだすかもしれない。
そうなれば、また――。
いや、過度に期待することはよそう……。それよりも今は目の前の集団だ。
庭にいる小集団は統一した動きを見せていない。それぞれの小集団で、それぞれ色々な事をしている。
ただ、そのほとんどが怠惰な時を過ごしているが……。
ただ、全てが遊んでいるわけではない。何かを警戒しているように、歩いている小集団もいた。おそらく交替で警戒しているのだろう。
そして、数多くある篝火が、何者か――もっとも、それはルル達以外には考えられないが――の襲撃を警戒している事を伝えてくる。
こうして見ると、相手にはルル達が来ることを分かっているのがよくわかる。明らかに罠にかかっているのはルル達なのだろう。
でも、ルルにとってそんな事はどうでもいいに違いない。その屋敷の真正面から伸びる道を、ルルは自分の足で力強く進んでいく。
そう、屋敷を一望できる場所から覗いたあと、ルルはそう決めていた。
それがルルの意志の表れ。隠密に処理するわけではない。そこにいる全員を始末する気迫が十分に伝わってくる。
ただ、アスティだけはその様子が違っていた。
こういう時は、いつも先頭を歩くアスティが、半歩遅れてその右側を歩いている。相変わらず、その顔はフードに隠れていてよく見えない。ただ、しきりに何かを呟いていることから、何かを思っているのかもしれなかった。
まあ、どちらにせよ、ここにきてアスティは自分がはめられたことに気づいていた。尋問した人間が故意的にアスティにその情報を流したとは考えにくい。そう信じ込ませていた可能性がある。いずれにしても、アスティにその情報を握らせるために作られた男がいたという事実だけがわかっている。
この件に、アスティがまんまと騙されるほどの人物が関わっている。
ひょっとすると、すでに暗殺ギルドの手が回っているのかもしれない。ただ、そのわりに、屋敷の人間はルル達の接近にはまったく気付いていなかった。暗殺ギルドの人間なら、きっと今頃警戒して待ち構えているだろう。もしくは、油断しているふりをするか――。ただ、その気配はさっき見た感じからは感じられない。
本当に、よくわからない事が起きている。そんな事をお構いなしに、少年を肩にのせたリラが暢気にルルの左側を歩いていた。
もっとも、この少年がいるからルルは真正面からを選んだのかもしれない。この少年がいたのでは、秘密裏に行動できないのだから。
ただ、ルルとのつながりが希薄になった今の俺。その考えの一端すら理解していないのかもしれないが……。
「では、先に行きます。ルル、あまり暴れないようにしてください」
もう屋敷が見えるころ、アスティはいつもの感じでそう言い残して消えていく。ただそれを、ルルは黙って見送っていた。
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